1. HOME
  2. サスティナビリティ
  3. 脱炭素とは?カーボンニュートラルの実現に向けた温室効果ガス削減の基礎知識と企業戦略
サスティナビリティ

脱炭素とは?カーボンニュートラルの実現に向けた温室効果ガス削減の基礎知識と企業戦略

地球温暖化対策として世界的に注目される「脱炭素」。日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言し、企業にとって脱炭素への取り組みは経営戦略上の重要課題となっています。本記事では、ビジネスパーソンに必要な脱炭素の基礎知識から、具体的な取り組み方、企業価値向上につながる戦略まで、体系的に解説します。

 

1. 脱炭素の基礎知識

1.1. 脱炭素社会とは

脱炭素とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを指します。具体的には、人間活動による二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を可能な限り削減し、残りの排出分を森林などによる吸収量で相殺することで、排出量を実質的にゼロにする取り組みです。

脱炭素社会の実現に向けては、産業界、行政、市民社会など、あらゆるステークホルダーが協力して温室効果ガスの排出削減に取り組む必要があります。特に企業においては、事業活動における環境負荷の低減が重要な経営課題となっています。

1.2. カーボンニュートラルの定義と概要

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的な排出量をゼロにする取り組みを指します。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、世界各国が具体的な目標を掲げています。

カーボンニュートラルの達成には、再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギーの推進、革新的技術の開発など、複合的なアプローチが必要です。特に企業にとっては、自社の事業活動における排出量の把握と削減、サプライチェーン全体での取り組みが求められています。

1.3. 温室効果ガスの種類と影響

温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスなどがあります。これらのガスは大気中に蓄積され、地球の平均気温上昇を引き起こす原因となっています。

地球温暖化の進行は、気候変動を通じて私たちの生活や経済活動に大きな影響を及ぼします。異常気象の増加、海面上昇、生態系への影響など、さまざまな環境問題を引き起こすことが懸念されています。

1.4. 世界の温室効果ガス排出量の現状

世界の温室効果ガスの排出量は、産業革命以降、特に20世紀後半から急速に増加しています。国連の報告によると、このまま対策を講じなければ、今世紀末までに地球の平均気温が産業革命以前と比べて3度以上上昇する可能性があるとされています。

2. 脱炭素に向けた国際的な動き

2.1. パリ協定の概要と目標

2015年に採択されたパリ協定は、気候変動枠組条約に基づく国際的な取り決めです。同協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度未満に抑制すること、さらに1.5度に抑える努力を追求することが合意されました。

この目標の実現に向けて、各国は自国の温室効果ガス排出削減目標を設定し、定期的に進捗状況を報告することが求められています。

2.2. 各国の脱炭素政策比較

世界各国は脱炭素社会の実現に向けて、様々な政策を展開しています。EUは「欧州グリーンディール」を策定し、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指しています。中国も2060年までのカーボンニュートラル実現を表明し、再生可能エネルギーの導入を加速させています。

米国はパリ協定に復帰し、2050年までのネットゼロ排出を目指すことを宣言。クリーンエネルギーへの大規模投資を進めています。

2.3. 国連による気候変動対策の枠組み

国連は気候変動対策の国際的な枠組みづくりを主導しています。気候変動枠組条約のもと、定期的にCOP(締約国会議)を開催し、各国の取り組みの進捗確認や新たな目標設定を行っています。

また、SDGs(持続可能な開発目標)の中でも、気候変動対策は重要な目標として位置づけられており、国際社会全体で取り組むべき課題として認識されています。

2.4. 2050年カーボンニュートラルへのロードマップ

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、国際エネルギー機関(IEA)などが具体的なロードマップを示しています。これには、再生可能エネルギーの大幅な導入拡大、エネルギー効率の改善、革新的技術の開発・導入などが含まれます。

3. 日本における脱炭素の取り組み

3.1. 日本の温室効果ガス排出量の現状

日本の温室効果ガス排出量は、2013年度をピークに減少傾向にありますが、さらなる削減が必要とされています。特に、エネルギー起源のCO2排出量が全体の約9割を占めており、この分野での対策が重要です。

3.2. 政府の脱炭素戦略

日本政府は2020年10月に2050年カーボンニュートラルを宣言し、その実現に向けた具体的な戦略を打ち出しています。2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減する目標を掲げ、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しています。

3.3. グリーン成長戦略の概要

経済産業省が中心となって策定したグリーン成長戦略では、14の重要分野を特定し、各分野での具体的な取り組みと支援策を示しています。再生可能エネルギー、水素、蓄電池など、成長が期待される分野への投資を促進し、経済と環境の好循環を目指しています。

3.4. 地方自治体の取り組み事例

全国の地方自治体でも、独自の脱炭素施策が展開されています。再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギー対策の推進、環境教育の実施など、地域特性を活かした取り組みが行われています。特に、2050年までにCO2排出実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を表明する自治体が増加しています。

4. 企業に求められる脱炭素化対応

4.1. 脱炭素経営の重要性

企業における脱炭素経営とは、気候変動対策を経営戦略の中核に位置づけ、温室効果ガスの排出削減と企業価値の向上を同時に実現する取り組みです。近年、投資家や消費者の環境意識の高まりにより、企業の脱炭素への取り組みは、事業継続の必須条件となっています。

特に、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業には温室効果ガスの排出量を把握し、具体的な削減目標を設定することが求められています。さらに、その達成に向けたアクションプランの策定と実行が必要です。

4.2. ESG投資と企業価値

ESG投資の拡大により、企業の環境への取り組みは投資判断の重要な要素となっています。特に脱炭素への対応は、環境(E)の評価において中心的な指標となっており、積極的な取り組みは企業価値の向上につながります。

実際に、温室効果ガスの排出量削減目標を設定し、着実に実行している企業は、投資家からの評価が高く、資金調達においても有利な立場にあります。一方で、対応が遅れている企業は、投資対象から外される「ダイベストメント」のリスクに直面しています。

4.3. カーボンプライシングの影響

カーボンプライシングは、温室効果ガスの排出に対して価格付けを行う経済的手法です。具体的には、炭素税や排出量取引制度などがあり、企業の事業活動に大きな影響を与えています。

日本でも、カーボンプライシングの導入に向けた議論が進んでおり、企業は将来的なコスト増加に備えて、早期から対策を講じる必要があります。特に、エネルギー消費量の多い製造業では、競争力維持のための戦略的な対応が求められています。

4.4. サプライチェーン全体での取り組み

脱炭素化への取り組みは、自社の事業活動だけでなく、サプライチェーン全体で推進することが重要です。特に大企業には、取引先企業の温室効果ガス排出削減を支援し、サプライチェーン全体での脱炭素化を実現することが期待されています。

5. 脱炭素化のための具体的施策

5.1. 再生可能エネルギーの活用

再生可能エネルギーの活用は、企業の脱炭素化において最も効果的な施策の一つです。太陽光発電や風力発電などの自社設備の導入、再生可能エネルギー由来の電力購入、環境価値証書の活用など、様々な選択肢があります。

特に注目されているのが、企業が再生可能エネルギー100%の使用を目指す国際イニシアチブ「RE100」への参加です。参加企業は年々増加しており、グローバルなビジネス展開において重要な要素となっています。

5.2. エネルギー効率の改善

エネルギー効率の改善は、コスト削減と温室効果ガスの排出削減を同時に実現できる重要な施策です。製造プロセスの効率化、高効率機器への更新、建物の省エネ化など、様々な取り組みが可能です。

また、IoTやAIを活用したエネルギーマネジメントシステムの導入により、より効率的なエネルギー使用が可能となっています。

5.3. カーボンオフセットの活用

カーボンオフセットは、自社で削減が困難な温室効果ガスの排出量を、他の場所での削減・吸収量で相殺する仕組みです。森林保全プロジェクトへの投資や、排出権の購入などが一般的な方法です。

ただし、カーボンオフセットは補完的な手段として位置づけ、まずは自社での排出削減に最大限取り組むことが重要です。

5.4. 革新的技術の導入

脱炭素社会の実現に向けては、既存の技術だけでなく、革新的な技術の開発・導入が不可欠です。水素エネルギーの活用、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)、次世代蓄電池など、様々な技術開発が進められています。

6. 企業価値向上につながる脱炭素戦略

6.1. 経営戦略への組み込み方

脱炭素戦略を成功させるためには、経営戦略の中核に位置づけ、全社的な取り組みとして推進することが重要です。具体的には、経営計画への織り込み、投資判断基準への反映、組織体制の整備などが必要です。

また、脱炭素への取り組みを新たなビジネス機会として捉え、環境配慮型の製品・サービスの開発や、新規事業の創出につなげている企業も増えています。

6.2. 投資家との対話のポイント

投資家との対話においては、脱炭素への取り組みが企業価値の向上にどのようにつながるのかを、具体的なデータや事例を用いて説明することが重要です。特に、中長期的な視点での戦略と、その実現に向けたマイルストーンを示すことが求められています。

6.3. 情報開示と透明性確保

温室効果ガスの排出量や削減目標、その進捗状況などの情報開示は、ステークホルダーとの信頼関係構築に不可欠です。TCFDなどの国際的な枠組みに沿った情報開示を行うことで、投資家からの評価向上につながります。

6.4. 競争優位性の構築

脱炭素への取り組みを通じて、エネルギーコストの削減、製品・サービスの差別化、新規市場の開拓など、様々な形で競争優位性を構築することが可能です。特に、サプライチェーン全体での取り組みは、取引先との関係強化にもつながります。

7. 脱炭素化支援制度の活用

7.1. 政府による支援制度

日本政府は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、企業の脱炭素化を支援するための様々な制度を整備しています。特に、温室効果ガスの排出削減に向けた設備投資や技術開発に対する支援が充実しています。

環境省や経済産業省を中心に、脱炭素社会の実現に向けた補助金制度や税制優遇措置が設けられており、企業規模や業種に応じた支援メニューが用意されています。これらの支援制度を効果的に活用することで、脱炭素化への取り組みを加速させることが可能です。

7.2. 補助金・税制優遇措置

脱炭素化に向けた設備投資を支援する主な補助金制度には、省エネルギー設備の導入支援、再生可能エネルギー設備の導入支援、CO2排出削減設備の導入支援などがあります。また、研究開発を支援する制度も充実しており、革新的な技術開発に取り組む企業を後押ししています。

税制面では、省エネルギー設備や再生可能エネルギー設備の導入に対する特別償却制度や税額控除制度が設けられています。これらの制度を活用することで、初期投資の負担を軽減することができます。

7.3. グリーンボンドの活用

グリーンボンドは、環境改善効果のあるプロジェクトに限定して資金を調達する債券です。脱炭素化に向けた設備投資や技術開発の資金調達手段として、近年注目を集めています。

グリーンボンドの発行は、環境への取り組みを対外的にアピールする効果もあり、企業価値の向上にもつながります。また、投資家層の拡大や資金調達コストの低減といったメリットも期待できます。

7.4. 国際的な支援プログラム

国連や世界銀行などの国際機関も、企業の脱炭素化を支援するための様々なプログラムを展開しています。特に、途上国での脱炭素化プロジェクトに対する支援や、国際的な技術協力の枠組みが整備されています。

これらの国際的な支援プログラムを活用することで、グローバルな事業展開における脱炭素化の取り組みを効果的に進めることができます。

8. 今後の展望と課題

8.1. 技術革新の可能性

脱炭素社会の実現に向けては、革新的な技術開発が不可欠です。現在、水素技術、CCUS(CO2回収・利用・貯留)、次世代蓄電池など、様々な分野で技術開発が進められています。特に注目されているのが、グリーン水素の製造技術や、CO2を資源として活用する技術の開発です。

また、デジタル技術の進展により、エネルギー管理の高度化や効率化が進んでいます。AI・IoTを活用したスマートエネルギーマネジメントシステムの普及により、より効果的な温室効果ガスの排出削減が可能となっています。

8.2. 規制強化の動向

世界各国で脱炭素化に向けた規制が強化される傾向にあります。特に、EUではカーボンボーダー調整メカニズム(CBAM)の導入が予定されており、輸出企業への影響が懸念されています。

日本においても、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、温室効果ガスの排出規制や情報開示要件の強化が予想されます。企業は、これらの規制強化を見据えた対応を早期に検討する必要があります。

8.3. 新たなビジネス機会

脱炭素化の潮流は、企業にとって新たなビジネス機会をもたらします。環境配慮型の製品・サービスの需要増加、再生可能エネルギー関連ビジネスの拡大、循環経済に基づく新規事業の創出など、様々な機会が生まれています。

特に、脱炭素技術の開発・実用化は、グローバル市場における競争力の源泉となります。日本企業の持つ高い技術力を活かし、脱炭素分野での国際競争力を強化することが期待されています。

8.4. 企業に求められる対応

今後、企業には以下のような対応が求められます:

1. 中長期的な視点での脱炭素戦略の策定と実行
2. サプライチェーン全体での温室効果ガス排出削減
3. 革新的な技術開発への投資と導入
4. ステークホルダーとの対話強化と情報開示の充実
5. 国際的な規制動向への対応

特に重要なのは、脱炭素化を経営戦略の中核に位置づけ、企業価値の向上につながる取り組みとして推進することです。また、業界や地域を超えた協力関係の構築も、脱炭素社会の実現に向けて重要となります。

2050年カーボンニュートラルの実現は、企業にとって大きな課題ですが、同時に新たな成長機会でもあります。長期的な視点で戦略を立て、着実に実行していくことが、持続可能な企業経営につながります。

よくある質問と回答

脱炭素に関する基本的な質問

Q1: 脱炭素とカーボンニュートラルの違いは何ですか?

A1: 脱炭素とは温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを指し、カーボンニュートラルは排出量と吸収量を均衡させる考え方です。脱炭素がより広い概念で、カーボンニュートラルはその実現手段の一つと位置づけられます。

Q2: なぜ脱炭素が必要なのですか?

A2: 地球温暖化対策として脱炭素は不可欠です。温室効果ガスの増加による気候変動は、異常気象や生態系への影響、経済損失など、深刻な問題を引き起こすため、世界的な取り組みが求められています。

企業の取り組みに関する質問

Q3: 企業が脱炭素に取り組むメリットは何ですか?

A3: 主なメリットとして以下が挙げられます: – ESG投資の獲得機会の増加 – 企業価値・ブランド価値の向上 – エネルギーコストの削減 – 新規ビジネス機会の創出 – 規制リスクへの対応

Q4: 中小企業でも脱炭素に取り組めますか?

A4: はい、可能です。省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用など、企業規模に応じた取り組みを段階的に進めることができます。また、政府による支援制度も整備されています。

具体的な取り組みに関する質問

Q5: 脱炭素化を進めるための具体的な方法は?

A5: 主な取り組み方法として以下があります: – 省エネルギー設備の導入 – 再生可能エネルギーの活用 – エネルギー管理システムの導入 – サプライチェーン全体での排出削減 – カーボンオフセットの活用

Q6: 脱炭素化のための支援制度にはどのようなものがありますか?

A6: 主な支援制度として以下があります: – 設備投資への補助金 – 省エネ設備導入への税制優遇 – 低利融資制度 – 技術開発支援 – 情報提供・コンサルティング支援

脱炭素化に向けた温室効果ガスの排出量の削減とは具体的にどのような取り組みですか?

温室効果ガスの排出量の削減は、企業活動や日常生活におけるCO2排出を抑制する取り組みです。具体的には、再生可能エネルギーの導入、省エネ設備への更新、環境配慮型の製品開発などが含まれます。

企業が排出を全体としてゼロにするためには、どのような戦略が必要ですか?

企業が排出を全体として管理し、削減していくためには、まず現状の排出量を正確に把握することが重要です。その上で、省エネ対策、再生可能エネルギーの活用、サプライチェーン全体での取り組みを統合的に推進する必要があります。

事業活動全体としてゼロエミッションを達成するには、どのような手順を踏むべきですか?

全体としてゼロエミッションを実現するためには、段階的なアプローチが必要です。まず排出量の可視化と削減目標の設定、次に具体的な削減施策の実施、そして最終的にカーボンオフセットなどを活用した残余排出量の相殺を行います。