社内ベンチャーとは?作り方やメリット・デメリットを解説
新たな事業の創出やイノベーションを追求するため、大企業が内部で新規事業の種を育てる、それが「社内ベンチャー」の概念です。しかしながら、その意義や仕組み、起業から派生するメリットとデメリットについてはあまり広くは理解されていません。
今回は、これから事業創造を試みたい企業や社内で新しいチャレンジを展開したい個人に向け、社内ベンチャーの作り方やその効能、そして特有のチャレンジについて詳しくみていきたいと思います。
目次
社内ベンチャー(社内起業)とは
社内ベンチャー、もしくは社内起業という概念は、企業内で新たなビジネスチャンスを模索し、それを追求する組織のことを表します。これは、単に既存の事業領域にとどまることなく、新規の事業モデルを創出する目的で設立されます。
社内ベンチャーの特徴的な要素として、既存の大企業では困難な敏捷性を発揮できることが挙げられます。つまり、新製品や新サービスを次々と開発し、その運営を担当するという柔軟な体勢を持っているのです。
社内で新たな事業をスタートアップするこの試みは、社内ベンチャー(社内起業)制度として認識されており、日本国内の様々な企業で導入されています。これによって企業は、既存事業への過度な依存から自由になり、利益の拡大や風土の更新を実現することを目指しています。
社内ベンチャーを導入する目的とは
企業が社内ベンチャーを導入する目的をご紹介します。
利益の拡大
今日の世界では人々の価値観や流行が急速に変化し、企業が単純に既存事業を運営するだけでは収益の拡大が難しくなっています。このような背景から、新たな市場開拓や利益源の確保を目指し、新規事業の展開を試みる企業も増えています。その際に、企業が採用する戦略の一つが社内ベンチャーの導入です。
社内ベンチャー制度は、企業内から新たな事業を立ち上げる手段として使用されます。これにより、従来とは異なるアプローチから利益を創出できるチャンスを提供し、企業のパフォーマンスの向上を目指すことが可能となります。
しかしながら、社内ベンチャーの目的は、利益拡大だけでなく、組織の成長や風土の変革、人材育成の機会を創出することでもあります。社内ベンチャーを通じて、新たな事業以外にもベンチャーマインドを育成し、組織全体を活性化させることも期待できます。
リスク分散
複数のビジネスを展開することで、そうしたリスクを分散させることができます。それぞれの事業が互いにバランスをとりながら成長することで、一時的に一つの事業が停滞しても全体の安定性は保たれるのです。そのため近年は、リスクを軽減するために社内ベンチャー制度を採用する企業が増えています。
社内ベンチャーの導入は、一つの事業に過度に依存するリスクを回避し、企業全体を揺るがすような売り上げ低下の危機を未然に防ぐ働きをします。さらに、新たな視点や発想により、既存事業の成長も促進します。
社員のモチベーションアップ
経営継続における変革と成長の必要性を無視すると、一貫性を持つ業務が単調になり、同じタスクを繰り返すことで社員のモチベーション低下を引き起こす可能性があります。
この課題に対して、企業内での新規事業立ち上げこそが解決策の一つとして挙げられます。それは、社内ベンチャー制度の導入と呼ばれ、アイディアや知識をもつ個々の社員が自己の可能性を最大限に発揮する機会を与えるものです。この制度は通常の業務範囲を超え、全く新たなビジネスモデルやプロジェクトに取り組むことが可能になります。
この新たなチャレンジは、プロジェクトのリーダーシップや事業開発の経験といった、通常の業務では得られない成長の機会を提供します。リスクも存在しますが、それと同時に成功体験や自分のアイディアが具体化する達成感も得られ、これらを通じて社員のモチベーションは向上します。
また、社内ベンチャー制度の導入は企業文化にも新たな風を吹き込みます。それは、時流に適応し組織改革を促進するだけでなく、社員一人一人が新しいチャレンジに積極的に手を挙げ、その試みを応援する企業文化の形成につながるからです。これにより、継続的な企業成長だけでなく、社員のやりがいを強化し、企業文化を充実させる効果も期待できます。
投資
企業の大きな成長に伴い、稼ぎ出した利益は資金として蓄積されます。しかし、その活用方法を見つけることが出来ず、利益が寝てしまっていることがあります。
このような状況の企業に対して、社内ベンチャーという仕組みが有効な手段となっています。これは、企業内で新たな事業を生み出すことで、寝ている資金を有益な形で使いこなす方法なのです。
社内ベンチャーを立ち上げ、そこに自社の資金を投入すれば、新規事業が成功した場合には大きなリターンが得られ、企業の経済的な健康度を向上させる可能性があります。
さらに、社内ベンチャーは社員の持てる能力を最大限に引き出し、彼らが自由にアイデアを語り合い、行動する場を提供します。これによって、企業全体の創造力と革新力を高め、継続的な成長を促進します。
社内ベンチャーのメリットとは
社内ベンチャーを導入する主なメリットをご紹介します。
新規事業に挑戦できる
社内ベンチャーは企業内に存在する新たなプロジェクトであり、その多くの利点の一部を今回は紹介します。
とりわけ最大の利点は、新たな事業分野への挑戦機会です。たとえば、従業している企業が既存の事業に留まろうとする場合、新規のアイデアは、しばしば既存のビジネスモデルやシステムとの整合性が取れないと見なされ敬遠されがちです。しかし、社内ベンチャーという形態では、主要な事業から外れてさえ新たなビジネスを追求する自由が保証されています。
企業が新市場に進出し、成長を続けていくための重要な手段に他なりません。これは社内ベンチャーが企業全体の固定されたビジョンから脱却し、新たな価値を生み出す可能性が秘めているからです。
さらに、社内ベンチャーは社員全体に独自のアイデアを現実化できる場を提供します。自由度の高い発想と挑戦するなかで成長する文化は、社員のモチベーションを一層引き上げ、組織としての持続的な発展に寄与します。
社内ベンチャーは新規事業への挑戦という新たな価値を生み出すだけでなく、すべての社員が個々に成長し、エネルギー溢れる企業へと変貌するための土台を提供します。たとえば、食品メーカーがAI(人工知能)の分野に進出したり、システム開発企業が輸送業に乗り出したりといった具体的なケースがあります。このようにして、確固たる関連性の範囲に固執することなく新事業に挑むことが、既存事業を長年経営してきた企業にとって大いなるメリットとなるのです。
新たな利益の獲得
新たな事業が立ち上がり、成功すると新しい収益の源泉が生まれます。また、新規事業は既存の事業に対しても建設的な影響を与え、予想外の相乗効果を生み出す可能性があります。変動する経済環境や業界の変化に対する対策としても、事業の多角化は求められます。
さらに、社内ベンチャーによる新規事業は、迅速で明確なフィードバックをもたらす良い機会であり、従業員が自社のビジョンと目標への理解と参加を深めることで、全社の業績向上につながる可能性があります。
人材育成
社内ベンチャー制度は人材育成の観点からも重要なポジションにあります。従来の企業では、上下の繋がりが強調され、特定の専門部署から必要な技術や知識を学んでいくことが普通でした。しかしながら、社内ベンチャー制度が導入されることで、新たな事業にチャレンジするメンバー全てが横の連携を強化することが可能となり、多岐に亘る業務スキルを手に入れる機会を確保できます。
新規事業への挑戦は、既存の枠組みから脱却し、新たな可能性を探求する活動です。それは、個々の社員が自らの役割や責任を明確に理解し、問題解決能力や判断力を強くする場となります。スタートアップのような機動性により、市場動向への素早い対応が可能であり、それを通じてスキルアップを促します。
得たスキルは元の部署に戻った際でも活用可能であり、企業全体としての競争力を高めるエレメントとなります。新たな価値創造の推進力である社内ベンチャーは、社員の個々の能力を引き出し、次世代の企業を担う重要な役割を担うと言えます。
一方で、社員が独立してベンチャーを立ち上げようとすると、自身の給与はもちろん、メンバー全員の給与負担や利益が出るまでのリスクも考慮しなければなりません。それに対し、社内ベンチャー制度を活用すれば、給与は変わらず、新規事業でのチャレンジをリスクを減らして行うことが可能となります。これにより、社員が経営についての経験を積みながらもリスクを抑え、企業としても将来のリーダーを育成できます。
社内ベンチャーのデメリットとは
社内ベンチャー制度のデメリットはどのようなものがあるでしょうか。詳しく見ていきましょう。
失敗する可能性
成功すれば企業全般の財政状態を上向きにし、新たな成長の道を切り開く存在となりますが、反対に失敗した場合には、それなりのデメリットを抱えることとなります。その一つが、経営資源の浪費です。多額の投資や人材、時間を注ぎ込みますが、それが成功しなければ、大きな損失となり全体の経営を揺るがす可能性があります。
さらに、社内ベンチャーの失敗は、企業文化へも影響を及ぼすことがあります。社員のモチベーションの低下や社内の対立を引き起こすきっかけとなり得るのです。新規の試みは全員が納得しながら進行することは難しく、失敗が反感や不満の原因となることも珍しくありません。
社内ベンチャーとは、リスクとチャンスが隣り合わせの存在です。そのため、失敗への覚悟は必要ですが、それをどう最小限にとどめるかが重要なポイントとなります。
資金や時間がかかる
社内の新たな部署をベンチャーとして設立する際、企業は多数の不確定要素に直面します。これは、経営陣がメンバーの配置や部署設定などを図らなければならないからです。具体的には、新規事業の計画や開発に着手するまでに相当の時間を割くことが求められます。
さらに問題となるのが、具体的な部署の創設です。既存の部署から人員が流れることによって、それまでの仕事は誰が引き受けるのか、新たな負担をどう分散するのかといった問題が浮上します。
そして、もちろん新規事業が軌道に乗らない可能性もあるわけで、これには投資した予算や潜在的な損失額など、金額面でのリスクも常に頭に置いておく必要があります。
以上のような点から、社内ベンチャーを設立することは、時間と費用面において大きな問題を孕んでいます。そのため、すでに存在する事業と平行して基盤作りを進めること、そして時間と費用のリスクをよく検討した上でプロジェクトをスタートさせることが、最善の道と言えるでしょう。
社内ベンチャー制度の作り方とは
社内ベンチャー設立の方法を解説していきます。
経営陣主導(トップダウン型)
“経営陣主導型”、または”トップダウン型”と呼ばれるアプローチを採用しつつ、社内ベンチャーを作り出す手法について紐解いていきます。このアプローチでは、新たなビジネスのチャンスや問題に対応するために、経営陣が主導権を握り、その指示が組織全体に落とし込まれていきます。それによって、ビジネスの枠組みを超越する新たな触媒が生まれるのです。
成功へ向けて経営陣が中心となる社内ベンチャーを形成するためには、まず最初に経営陣が自らのビジョンを明確にし、運用費用、期間、リソース等について具体的なプランを作成することが要求されます。その上で、そのプランを全社員に共有し、全員が同じビジョンを理解し、実行に移す仕組みを作り上げることが重要です。このようなプロセスを通して、全員が一緒に新たなビジネスのチャンスをつかむことが可能となります。
しかし、このタイプの社内ベンチャーでは、自由な発想や柔軟性が犠牲になる可能性があるので、そのバランスを取るための工夫が必要です。全体の進行と個々のアイデアの自由度をうまく調和させる一方で、革新的なアイデアを生み出す企業文化を維持することが重要だと言えます。
従業員主導(ボトムアップ型)
社内ベンチャーの構築において重視すべきは、従業員が自らアイデアや事業計画を作り、それが選考を通じて事業化するという流れです。これは「ボトムアップ型」の社内ベンチャーとも呼ばれます。
このアプローチを適用すると、経営層との直接的な接点が弱いため、従業員の創意工夫が無制限に広がる機会が生まれます。さらに、従業員自身が自己の挑戦したい案を推進できることから、その仕事への熱意も自然と上がるというメリットがあります。
具体的には、ボトムアップ型の社内ベンチャー制度の導入は、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上に寄与します。自分の思考が組織の成長や革新に対して直接貢献できるという認識が深まるため、業務への取り組みがより積極的になるでしょう。
また、この制度は従業員の中に眠る才能や力を呼び覚まします。新事業の提案や遂行に自由に挑戦することで、従業員が持つ可能性、例えば創造力やリーダーシップが明確化し、組織全体の力となるでしょう。
加えて、この方式は企業の柔軟性と持続的な成長を守ります。従業員が独自に課題を特定し、解決策を見つけ出すことで、大切な変革と進化のエネルギーが生み出されます。
つまり、ボトムアップ型の社内ベンチャー構築は、企業が革新的な成長を実現するための鍵となる要素と言えるでしょう。
社内ベンチャーを設立する際の注意点とは
ここでは、社内ベンチャーを設立する際の注意点をご紹介します。
独立した組織にする
社内ベンチャーは、大企業が未踏の事業分野に手を広げるための必須の手法です。新規事業の創出にあたって、多岐にわたる戦術や注意点が求められますが、その中でも「組織を自立させる」という考え方が極めて重要です。
大企業の傾向として、既成のビジネスビューと行動パターンが染み付いているのが一般的です。そのため、新規事業を創造するためには一時的にこれらの伝統から離れ、社内ベンチャーを新設の組織、つまり独立した組織として立ち上げることが要されます。
とはいえ、全社の戦略との連携を保ちつつ新規事業を展開するバランスも求められます。なおかつ、社内ベンチャーが孤立しないためにも、社員や企業資源を必要に応じて調達しやすい体制が求められます。
特に強調したいのは組織の自立性です。社内ベンチャーが独特の目指すべき目標と戦略を保有することで、他の関連者からの信頼を勝ち取ることが可能になります。さらに、母体とのつながりを維持することにより、リスクを分散させ、安全網を確保することも可能となります。この形が、社内ベンチャーを創設する際の理想的な姿といえるでしょう。
ビジョン・ミッションの提示
社内ベンチャーの設立は新たな挑戦であり、大企業の枠組みから外れた場所で様々な問題に立ち向かうことが必要となるでしょう。この新規プロジェクトの成功の鍵を握るのがビジョン・ミッションの提示です。
企業の将来像を示すビジョンと、目指す目標としてのミッションは、メンバー全員が一致団結して取り組むための共通の認識を与えます。この明確な方向性は、困難が立ちはだかった時でも進むべき道を見失わせず、チーム全体が解決策を求めて前進する力となります。
また、このビジョン・ミッションは事業パートナーや顧客にも明瞭に伝えるべきです。新規事業の目的と方向性を理解した上で、彼らはそれに対する信頼感と協力の意欲を持つでしょう。
つまり、ビジョン・ミッションによって「社内ベンチャーを始めた理由」を深く理解し、それを共有することが、新たな成果を生み出す重要なステップとなります。
セーフティーネットの準備
新進気鋭の社内ベンチャーは、独立性が確保されているとはいえ、結果責任を全うするのは当然です。しかし、新しい事業に挑戦する際には、その結果により社員が苦境に立たされるという事態を避けるため、万が一の事態に備えた「セーフティーネット」の概念をしっかりと組み入れることが重要です。
これは具体的に、「報酬体系を事前に策定しておく」ことを指します。この安心感があることで、メンバーは全力で新事業に取り組むことが可能となります。
また、「セーフティーネットを用意すると緊張感が薄れ、結果的に生産性が落ちる」と考える方もいるかもしれません。しかしそれは、社内ベンチャーの存在理由を見落としているといえます。
社内ベンチャーの醍醐味は、もし失敗しても元の職場に戻るということができる点にあります。この特性を生かせば、大きなリスクを背負わずとも新ビジネスに挑戦することが可能です。何事もリスクとのバランスを見極めることが重要であり、それを念頭に置いて新たな挑戦を続けていくべきでしょう。
まとめ
社内ベンチャーは、大企業が新たな価値創造に挑戦する先進的な手法です。その作り方は、社内での新規事業立案、社員自身のアイディアの発想と挑戦を支援する仕組みが基本となります。
メリットとして事業のダイバーシティ、社員の自主性・創造性を高める一方、リソースの配分や成功へのプレッシャーがデメリットとして存在します。
よくある質問
社内ベンチャーとベンチャー企業の違いとは?
社内ベンチャーとベンチャー企業の主な違いは、親企業に内在するか外部で独立しているかです。
- 出発点と組織構造
社内ベンチャー: 大企業内で新しいプロジェクトをスタートさせ、親企業のサポートを受ける。
ベンチャー企業: 独立した新興企業で、自己完結型のビジネスを展開。
- リソースとサポート
社内ベンチャー: 親企業のリソースやネットワークを活用できるが、組織慣習による遅れがある。
ベンチャー企業: 自力で資金調達し、柔軟な意思決定が可能だが、サポートは限定的。
- スピードと柔軟性
社内ベンチャー: 決定プロセスが大規模で遅れがちだが、既存資源を有効に活用可能。
ベンチャー企業: 迅速な意思決定が可能で、柔軟性が高いが、資源に限りがある。
- リスクと報酬
社内ベンチャー: 親企業のサポートがあるが、期待とプレッシャーも高い。
ベンチャー企業: リスクは高いが、成功すれば独自の報酬を得られる。