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インタビュー

東京ヴェルディの挑戦 スポーツの枠を超えた共生社会の実現へ

◆東京ヴェルディ株式会社 コンシューマー事業部

スクール・SDGsグループマネージャー 奈良 彬

2010年に東京ヴェルディに入社。現在はサッカースクールと、スポーツを通した社会貢献活動の業務を担当する部署に所属。

◆東京ヴェルディ株式会社 

障がい者スポーツ専門コーチ 中村 一昭

2014年に東京ヴェルディと契約。サッカーのコーチングライセンスに加え、上級パラスポーツ指導員、パラスポーツコーチなどの資格も取得。現在は「障がい者スポーツ専門コーチ」として契約。

16年ぶりにJ1リーグで戦った2024シーズンを、6位で終えた東京ヴェルディ。

集客面でもラモス瑠偉氏や北澤豪氏などが在籍していた黄金期に次ぐ自チーム内歴代3位となり、新しいファン・サポーターも増えてきている。

そんな東京ヴェルディがSDGsの分野でも沸かせているのはご存じだろうか。 目標3の領域『すべての人に健康と福祉を』に注力し、SDGsグループマネージャーを務める奈良彬氏とJリーグ初の「障がい者スポーツ専門コーチ」としてクラブと契約を更新した中村一昭コーチに話を伺った。

地道な活動から実を結びつつある地域共生社会

「2015年度に日野市での活動から障がい者スポーツ体験教室をスタートして、今年度は4区4市で合計250回以上活動予定です」と奈良氏は語る。

この日も渋谷区でパラスポーツ体験教室を行っており、チアダンスに加えてボールを使用したスポーツの2種目を1時間ほどかけて開催していた。

「我々はただスポーツを行うだけでなく、応援したりコミュニケーションを取って楽しめる雰囲気づくりを心がけています」そう語るのは中村コーチである。

中村コーチによると、申し込み制ではなく誰でも参加できるようにしているため、どんな障がいのある方が来てもよいように事前に準備をしている。という。例えばスケジュール表・見通し表を用意したり、聴覚障がいのある方が来た場合には、筆談でコミュニケーションを取れるよう準備をしておいたり、スポーツボランティアが手話で対応できることもある。

確かにホワイトボードがあったり、和気あいあいとした雰囲気だったり、スムーズに開催されているように思われる。

もちろん、指導者側は、中村コーチは上級パラスポーツ指導員の資格、他の方も指導員の資格を有したスタッフが対応しており、安心できる体制を整えている。 開催場所についても、急激な体温調節が難しい方を考慮して、基本的には室内で行ったり、障がいのある方がスポーツをするために整備された、アジア圏初のスペシャルクライフコートがある足立区と連携して利用したりと注意を払って行われている。

ここまで本気で取り組んでいる例はあまり聞いたことがない。何が彼らを突き動かしているのだろうか。

中村「20数年前に初めて特別支援学校を訪れた際に、障がいのある人たちのスポーツの場が少ないことに気づきました。彼らは、自分でどこかに行って友達と会って運動することが気軽にはなかなか難しい実態があります。そのような現場を見て、スポーツを誰でもできる環境にしたいと思い、Jリーグで千葉や甲府で障がい者スポーツを推進していたところ、2014年に東京ヴェルディから声をかけてもらいました。

奈良氏からは取り組み続けた結果としてようやく形になってきたことに安堵の表情が伺える。

奈良「東京都オリンピック・パラリンピック開催に伴い、外部から機運・要請が高まっていたことも大きいですが、大会終了後も障がいのある方がスポーツを楽しめる活動を持続させていくことを重要視していました。 最初は体験教室を開催しても数名の参加、イベントを開催しても数十人の参加からスタートしましたが、草の根活動が功を奏し、今では障がいがない方の参加も増え、体験教室では数十名、イベントは数百名に参加いただき、コミュニティが広がってきていることを肌で感じます。」

今では、チラシを見ました、と言ってふらっと参加される方や、友達を連れてくる方も多くいるのだという。

最初は手探りでスタートした障がい者スポーツ活動も毎日地道に続け、時には様々な小中学校に赴き出前授業も行っており、パラスポーツの競技体験を通じて障がい者理解を促進。障がい者が住みやすくなる街づくりも模索していることが地域に伝わり、今では信頼いただける活動となっている。

広がるSDGsパートナーとのプロジェクト

東京ヴェルディは、行政と連携した活動だけでなく、障がい者スポーツに共感頂く企業との連携も行っている。

代表的なものが、ジョンソン・エンド・ジョンソングループとの『ともに未来へ Green Heart Project』だ。

様々な障がいのある方を東京ヴェルディのホームスタジアムである味の素スタジアムに招待し、スポーツプログラム、就労体験、試合観戦を楽しんでもらう事業をこの5年で8回実施。

障がいのある方の未来への一歩を応援するための取り組みで、当日はジョンソン・エンド・ジョンソングループの社員も数多く参加し、障がいのある方と一緒に活動する。

奈良「参加者の皆さま同士のコミュニケーションが盛んで、各グループとも和気あいあいとした雰囲気に溢れ、笑い声や歓声の絶えない時間になっています。我々としても地域貢献を続けノーマライゼーションを実現していくためには、企業との連携が不可欠だと感じています。」

賛同する企業が増え、インクルーシブスポーツが当たり前になることを願うばかりである。

センサリールームを超えた画期的なGreen Heart Roomで拡がる感動体験

実は東京ヴェルディでは、日本では画期的な取り組みを2021年から開始している。

Green Heart Roomの運用である。「センサリールームのその先へ」を目指し、あらゆる種類の障がいのある方が家族で試合観戦を楽しめるように特別仕様のファミリールームとなっている。

当初は、大きな音や照明が苦手な方向けの従来型のセンサリールームの設置を模索していたが、相談した特別支援学校から、「ヴェルディさん、センサリールームだと自閉症や感覚過敏だけが対象になってしまうから、どんな障がいのある方でも受け入れる部屋をつくってはどうですか?」と背中を押され、各方面のプロフェッショナルに相談を行い、日本国内では初めての取り組みを味の素スタジアム内に設置した。

Green Heart Roomでは、クッションに寝そべることができ自宅のように落ち着けるし、気持ちを落ち着かせたいときには、パーテーションで区切ったスペースでクールダウンできるようになっている。 駐車場から館内までの導線についても工夫をしており、スポーツの楽しさを伝える戦隊「ヴェルレンジャー」が、時には敵を倒しながらGreen Heart Roomまで家族を案内するというアトラクションも用意している。

中村「今は年間数試合のみ招待制で利用いただいていますが、夢のような1日だったと喜んでいただけるお客様が多いです。利用者には一生の思い出になるようこれからも努力を続けていきます。また、Green Heartという心の穏やかさの環が拡がっていくように全試合に招待できるように、より多くの家族に利用できる状況を作り上げていきたいです。」

日常でのインクルーシブスポーツを中心とした地域共生と非日常体験の創造。

あらゆる人がスポーツを楽しめる土壌を作るべく、東京ヴェルディは本日も尽力する。