エッジAIとは?メリット・デメリットや活用事例について解説
テクノロジーの進化の波は、私たちの生活全体に影響を及ぼしています。アートから医学、教育からビジネスに至るまで、多くの産業がこの進化により根本的に変革されています。
その中でも特に注目を集めているのが、エッジAIです。一部の専門家や研究者間での需要が高まっている一方で、「エッジAIとは何か?」、「そのメリットやデメリットは何か?」そして、「どのような場面でエッジAIを活用できるのか?」といった具体的な情報が一般の人々にはまだ十分に伝わっていません。
ここでは、まだ新しいこの技術と、それがもたらす可能性や課題について解説していきます。
目次
エッジAIとは
エッジAIとは、AIがデータの処理を端末上で完了させる技術のことで、そのエッジは「端」を指し、端末デバイスを示しています。端末デバイスとは、スマートフォンやIoT(インターネット・オブ・シングス)デバイスのことを指し、これらのデバイスで直接AIの機能が活用可能となります。
エッジAIが注目される理由は、それがエッジコンピューティングと組み合わさることで生じる効果にあります。エッジコンピューティングとは、端末が生成するデータを近くのサーバーですぐに処理・分析する構造を指します。これにAIを組み込むことで、エッジAIが誕生しました。エッジAIを活用することによりデータの分析と処理が速くなり、その結果、データをクラウドに送信する必要性が減り、通信コストを削減できます。
エッジAIを用いることで自動車の自動運転や医療など、多様な分野でリアルタイムの高速なデータ処理が可能になりました。これらの利点から、エッジAIはこれからの社会において、日常生活をより便利で快適なものへと進化させて行きます。
エッジAIが注目される理由とは
エッジAIが注目を浴びる理由の一つは、IoTの普及に伴い、膨大なデータをリアルタイムで処理する必要性が高まっていることです。
通信遅延は5G(第5世代移動通信システム)の登場により大幅に抑えられましたが、依然として数ミリ秒単位の微小な遅延が残り、特にファクトリーオートメーション(FA)や自動運転などの分野では極めて高速な応答性が求められます。AIが学習、推論、解析をリアルタイムに行わなければならない状況では、僅かな遅延でも致命的な結果をもたらす可能性があります。
通信の速度だけでなく、通信にはさまざまなリスクも伴います。インターネット回線が途切れたり不安定だったりする状況下でのAI運用が求められる場面もあります。また、データを送信したりクラウド上にデータを保管したりすることに抵抗がある場合、高度なセキュリティが必要な状況も考えられます。
エッジAIには異なる種類がありますが、クラウドを必要とせずスタンドアローンで動作するものは、通信に関連する問題に対処できる利点があります。状況に応じてクラウドAIとエッジAIを柔軟に使い分けることも可能です。
エッジAIとクラウドAIの違いとは
まず、クラウドAIはクラウド上のコンピュータを使用してデータ処理を行います。このため、学習環境がクラウド内にあり、高度な計算や判断能力を身につけることが期待されます。一方で、エッジAIは端末内での操作に対して即座に判断を下します。例えば、画面認証や音声認識などがエッジAIの得意分野であり、クラウドAIにはないスピーディーな処理が特長です。
データ処理量については、クラウドAIがエッジAIよりも多くのデータを処理できる傾向があります。しかし、エッジAIはその瞬発的な処理速度がクラウドAIにはない利点です。
クラウドAIはクラウド内での大規模データ処理に強みを持ち、エッジAIは端末内での迅速かつ即座な処理に特長があります。
エッジAIのメリットとは
エッジAIのメリットを具体的にご紹介します。
レスポンスが早い
エッジAIでは、デバイス自体が直接データを処理します。膨大なデータをクラウドに送信する必要がないため、通信遅延や他のデータ転送による待機時間を大幅に削減することが可能です。つまり、時間や場所を選ばず、リアルタイムの高速レスポンスを得ることが可能になります。
情報漏えいリスクを減らせる
エッジAIとは、元々クラウドで行われていたAI処理を端末側で実施する技術を指します。このエッジAIの一番のメリットは、「情報漏えいのリスク低減」です。
エッジAIは、端末で直に計算や分析を行うため、重要な情報が一切クラウドへ上がらないのが最大の特性です。これにより、データ漏洩やハッキングリスクが大幅に減少します。これまでの企業では、重要な情報のクラウドへのアップロードによる情報漏えいリスクに問題を抱えていました。
しかし、エッジAIの導入により、データの送信そのものが不要になります。クラウドへの通信が減ると同時に、データ保護が可能となります。これにより、個人情報や事業上重要なデータなど、さまざまな情報の管理と保護が実現します。
エッジAIを採用すれば、より安全で効率的な情報管理が可能となるのです。これは、ますますデジタル化が進む現代社会で、大変重要な意味を持つでしょう。
データ通信量の軽減
エッジAIという技術は、AIの力を利用して端末デバイス側でデータの処理を行います。最大の利点は、データ通信量の削減にあります。従来のクラウドAIでは、大量のデータをリアルタイムで処理するためには膨大な通信量と、それに伴う高額な通信費用やサーバー容量が必要でした。
しかし、エッジAIでは、データの収集と処理を端末側で行えるため、クラウドへ送信するデータ量は限定的になります。
これにより、データ通信量は大きく削減され、通信費用やサーバーの容量問題も軽減します。
リアルタイムでのデータ処理が可能となるため、即座の反応が求められる業務や、通信の遅延が許されない状況でも、エッジAIは最大のパフォーマンスを発揮します。これらは、効率的かつ高速なサービス提供を可能にし、ビジネスの競争力を強化する要因となります。
スピーディなシステム構築
エッジAIの活用は、素早いシステム設計の実現にオススメです。AIとデータ収集デバイスが近接しているため、複雑なシステムやネットワーク構成を避けられます。
例えば、AI機能を有するカメラの操作を考えてみましょう。カメラが収集した映像データは、ローカルエリアネットワーク内のPCに送信され、そこでAI処理がなされます。要するに、カメラ、処理用PC、そして通信経路のみから成るシンプルな構成となります。
カメラ内部にAIシステムが組み込まれている状況を想定すると、一つのデバイスでデータ収集からAI処理までを完了させ、結果を直接送信するだけの非常にシンプルな構成が実現します。
いずれのケースも、エッジAIの特性であるデータ伝送時間の短縮とネットワーク接続の不要性を活かし、複雑性を排除したスピーディなシステムの構築が可能となります。これにより、エッジAIは各種産業に革新をもたらすでしょう。
エッジAIのデメリットとは
ここでは、導入前に把握しておくべきデメリットについて見ていきましょう。
処理能力が限られる
エッジAIの処理能力は端末のスペックに大いに依存し、大規模なデータ分析やより複雑なAI計算には限界があります。性質上、端末のスペックに連動した制約が存在します。
大容量のデータを扱う際や、より高度なAIアルゴリズムを使うケースでは、エッジAIによる即時性が十分に発揮できない事態となる可能性があります。
エッジAIの主流な運用形態はクラウドとの組み合わせです。端末側では推論のみを行い、学習はクラウド上で行うという形式が一般的です。
管理の手間・コストがかかる
エッジAIの実装は端末の全体管理が求められます。データの送受信を行う各端末にエッジAIを導入すると、個々に動作するため、それぞれの管理やメンテナンスが必須となります。エッジAIの搭載端末は通常多数存在し、その数が増えるほど、管理はより複雑化し、人的なリソースとコストが相応に必要となります。
さらに、社内システムをアップデートしたり、新しいソフトを導入する際には、各エッジAI搭載端末に対するダウンロードや同期作業などの細やかな対応が欠かせません。一括管理が可能なシステムを導入することも選択肢となりますが、システムを変更する過程には問題が生じる可能性もあるため、そのリスクも考慮しながら慎重な対応を計画する必要があります。
大規模なシステム構築に向いていない
エッジAIは個々のデバイスでデータ処理を行うという特性上、その処理能力の制限があるため、大規模システムの導入が困難となる可能性があります。
また、個々のデバイスが独立してAIとして働くため、置き換えに手間とコストがかかる管理負担の増加が無視できない問題となります。さらに、全体としての整合性や統一性を保つことも困難になるでしょう。
データを集中的に取り扱い、まとめてAI処理を行いたい場合、クラウドAIが最適な解決策となるでしょう。それに対して、エッジAIで大規模システムを作り上げるには、高い処理性能を持つ専門機器が不可欠ですが、それは大規模なコストを必要とします。
限定的な処理能力を持つシステムで大規模なエッジAIを構築しようとしたとき、その低い処理能力がボトルネックになり、システム全体の処理速度を下げる可能性があります。
そのため、導入を決定する前には十分な検証が必須となります。
エッジAIの活用方法とは
エッジAIの高速なデータ処理は、製造業に限らず、公共インフラ、医療、農産業など、さまざまな産業で活用可能です。また、エッジAIを利用したサービスも併せて紹介します。
自動運転
エッジAIは、ネットワーク経由せずにデバイス上でAI処理を行う先進技術で、自動運転界隈に革新を起こしています。
自動運転車は、自身の位置を把握し、周囲の車両や障害物を避けつつ安全なルートを選択し、リアルタイムで大量のデータを処理する必要がある非常に高度なシステムです。それらはエッジAIの力を借りて実現しています。
自動運転車では通信遅延の問題やデータプライバシー保護がそれまでのクラウドベースのAIにおける課題でした。しかし、エッジAIはデバイス上で処理を行うため、通信遅延とプライバシー問題を劇的に解消します。更に通信量の削減により、データ通信費用も抑えられます。
エッジAIの導入により、車両間通信(V2V)や車両とインフラストラクチャ間通信(V2I)なども活性化し、さらに安全性を強化し、交通表現も効率化するとともに、追突や接触事故の削減、長距離運転の軽減といったメリットが現実味を帯びます。
自動運転車は0〜5レベルの6つに分類されており、レベル5の「完全自動化」はAIの進歩と自動車側のシステム向上が欠かせません。そのためエッジAI技術は自動運転車の進化には欠かせない存在であり、自動運転とエッジAIは相互に発展を促し、我々の生活を大きく変える可能性を秘めています。
IoT
急速なIoT技術の発展により、接続可能なデバイスの数や種類が増加し、これに伴いAIの需要が一段と高まることが予測されます。
複数の機器が通信する際には通信量の増加や通信帯域の占有などの課題が生じますが、これらの問題に対処する手段としてエッジAIを活用することが期待されています。
将来的には、IoTの更なる普及においてエッジAIが不可欠な存在と見なされ、IoTとエッジAIの結びつきが一層強化されるでしょう。
製造業(スマートファクトリー)
スマートファクトリーでは、エッジAIというテクノロジーがデータ生成、処理、意味の理解に活用されています。
具体的には、エッジAIの能力により、デバイスが生産ラインの最適化やメンテナンスの予知をリアルタイムで行うことが可能になり、大量の生産データのリアルタイム分析を通じて生産効率を上げることが可能です。同時に、データ通信量を抑えつつ既存の設備投資を活用することで、コスト削減も図れます。
検品作業の効率化
エッジAIという技術は、現場で直接データ処理を可能にし、さまざまな業界での実用化が待たれています。その中でも、製品の検品業務の効率改善への貢献は特筆に値します。
大量に生産された製品を人手で検品する作業は、人材や時間が大幅に必要でコストが上昇し、しかもヒューマンエラーをなくすことは難しいパートです。
しかし、エッジAIを活用すれば、画像認識AIを搭載したカメラで製品をスキャンし、不良品を自動で見つけ出すことが可能となります。
エッジAIの能力が活きるのは、その高速なデータ処理能力です。製品が速く流れていく生産ライン上で即座に検品を行い、欠陥品を見つけたら警告音を出したりラインを停止させたりする判断がリアルタイムで可能となるのです。
まとめ
エッジAIはデータの処理を端末側で行う技術で、低レイテンシーとプライバシー保護を実現します。課題としては、セキュリティや開発コストが挙げられます。自動運転やIoT他、さまざまな分野でのエッジAIを活用することが今後期待されています。
よくある質問
エッジAIとは?
エッジ人工知能(AI)は、エンドポイントデバイスからデータとアルゴリズムを直接処理できるようにするエッジコンピューティングの拡張機能です。
エッジAIでできることは?
エッジAIの機能には、セキュリティ、高速性、およびコスト削減が挙げられます。
セキュリティ面では、データの取得や処理がエンドポイントで行われるため、プライバシー保護やデータの漏えいのリスクが最小限に抑えられます。
高速性は、リアルタイム処理が可能であり、高解像度の画像や映像も迅速に処理できます。
コスト面では、ネットワークを介さないため通信費用が削減できます。
エッジAIとクラウドAIの違いは何ですか?
エッジAIは一般的なパソコンやスマートフォンに搭載され、デバイス自体でのデータ処理が可能ですが、処理能力には限界があります。
一方で、クラウドAIは大容量サーバーに蓄積されたデータにアクセスし、既存の端末でも大規模な計算や高度な判断が可能です。
エッジAIの利点は何ですか?
エッジAIはデータを直接端末内で処理するため、データのクラウドへの送信が不要です。そのため、通信データ量が削減され、通信コストを抑えることができます。
特に通信環境が悪い場所では、エッジAIが優れた性能を発揮し、データ処理がスムーズに行える利点があります。
エッジAIの今後はどうなりますか?
2021年度の国内エッジAI分野の製品・サービス市場は、前年比70.8%増の76億6,000万円となり、2022年度には前年比52.7%増の117億円に達する見込みです。
さらに、2026年度まで年率41.3%増で成長し、その時点で431億円規模にまで達すると予測されています。