介護業界の人材不足とは?原因や解決策を解説
近年、我が国では超高齢社会の到来と共に介護を必要とする高齢者の数が増大し、それに見合った数の介護人材を確保することが急務となってきました。しかし、現状では介護業界における人材不足が深刻な課題となりつつあります。
これからの社会を支える上で避けては通れないこの人材不足問題。何がその原因となっているのでしょうか?また、その解決策とは一体何なのでしょうか?
今回は、介護業界の人材不足という問題を深堀りし、その原因と潜在的な解決策について解説していきます。
目次
介護業界の人手不足とは
まず、「社会全体における介護職不足」の問題に焦点を当てるために、国が公表した「第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量などに基づく介護職員の必要数」を考察します。
どれくらいの人材が不足しているか
高齢化社会の進行に伴い、介護職の人手不足が深刻化しています。
既存の介護職員たちは、増え続ける高齢者の介護に拍車がかかっており、それに伴い、彼らの過労や離職といった問題が昂じています。
これでは、介護サービスの質も維持が難しく、最終的には高齢者の生活が厳しくなるという悪循環です。
都道府県が推算した数値からも明らかで、2025年度には年間約32万人、そして2040年度に至っては年間約69万人という大量の介護職員が不足することが見込まれています。
そこで、介護職の人手不足を解消するための必要が求められています。その施策としては、賃金の改善や職場環境の充実、新たな技術の導入などが挙げられます。
具体的には、ロボットや遠隔システムを利用した介護サービスの開発が期待されています。
介護業界の現状は一見厳しいですが、打破すれば日本社会全体が持続可能になると思われます。
我々が高齢社会を乗り越え、新たな社会を作り出すための重要なステップとなります。
都心部の人手不足
都市部、特に首都圏、東海、関西地域などでは介護職の人手不足が大きな課題となっており、一方で地方では人材供給が安定している現状から、地域間での人手不足の違いも注視が必要であると思われます。
都道府県の介護職の有効求人倍率データからは、地方都市では2.5倍前後ですが、大都市圏では約4倍以上と、地方と都市部での求人倍率に大幅な違いがみられます。
全産業の全国平均の有効求人倍率は1.27倍(2022年7月29日現在)であることを踏まえると、都市部での介護職に就く人材を獲得する難しさが伺えます。
さらに、都市部と地方の65歳以上の人口推移を見ると、従来地方での高齢化が顕著であったのに対し、現在では地方の高齢化率は頭打ちで、これからは都市部での高齢者数増加が予想されます。
2040年以降、都市部でも高齢化率が頭打ちになると予測されるため、介護施設の建設だけでなく、既存のリソースの最適化や地域包括ケアの活用を含めた姿勢が重要となるでしょう。
また、世田谷区等で行われている地方からの人材のための家賃補助事業などを参考に、都市部での介護職確保の取り組みを具体的に進めることも求められてきています。
介護人材不足の原因とは
介護業界の人材不足の原因は何でしょうか。詳しく見ていきましょう。
人間関係
介護職の人手不足は一筋縄で考えられる問題ではありません。
一部では、「きつい・汚い・危険」など3Kという理由で離職されるイメージがありますが、実店舗の大きな問題は「人間関係」であることが挙げられます。
介護職場は、自身が必要とする利用者やその家族、他の介護スタッフ、医療スタッフなど様々な人々との相互作用が不可欠です。
その中で多様な利害関係者とのスムーズなコミュニケーションをとり、互いの理解と尊重を忘れずに作業することが求められます。
しかし、この要求を満たすのは困難な場合が多く、その結果、ストレスや労働条件のハードさからくる心理的な負担が介護人材の定着率を下げ、人手不足につながっています。
公益財団法人介護労働安定センターの調査によれば、介護職を離れた最も多い理由は「職場の人間関係に問題がある」と回答したもので23.2%を占めます。
「結婚・出産・妊娠・育児」や「理念や運営に不満」「将来に期待が持てない」など、他の理由でも人間関係からくる問題が深く関わっています。
「収入が少ない」という公に言われる問題は離職理由としては6番目で、実際の現場と社会的なイメージには乖離があることが分かります。
従って、介護人材の確保と定着には人間関係の改善が鍵となります。
関わるすべての人々が互いを理解し、尊重する文化を築くことで、介護現場は健全な職場環境を作り出し、持続可能な介護人材の確保に繋がることでしょう。
評価制度が整っていない
「介護人材不足」は日本の深刻な社会問題であり、その背後には「介護職の評価体系の不備」が大きな一因として存在しています。
介護は高い専門性と演繹力を必要とする職業ですが、その働きぶりや技能が実質的に反映されず、給与や待遇に結びつかない現状に問題があります。
言い換えれば、介護職場の評価基準が不明確であることが、職員間の溝を生む根源となっています。厳しい労働環境の中での精神的ストレスや高い希望の上での支援の提供、この全てが等しく評価されていないと感じることが、職員の困惑や摩擦に繋がるのです。
さらに、明確な評価指標がないことで、若手とベテランの間での意見の相違が起こりやすくなる傾向にあります。
これは前線で働く全てのワーカーにとって普遍的な問題で、介護業界においても特に新人が離職する一因となっています。
介護人材の不足は社会全体の課題であり、解決策を模索することが急務となっています。
それは介護職の労を適切に評価し、安心して働ける環境を整備することが一歩目となるでしょう。
アクションを起こすことで、老齢社会への対応と共に、持続可能な社会の構築が可能となります。
社会的評価が低い
介護業界の人材不足は日本社会の急務となっており、その背景には一般的な社会的評価の低さが存在します。多くの人々は、介護の仕事が名声や誉れに繋がらない職業と捉えている一方で、その報酬や福利待遇も他の業種と比較して見劣りします。
さらに、介護職員が一日のうちに果たすべき微細な配慮や接遇技術、あるいは命を預けられるという大いなる責任に対して、社会全体からの認知度が十分でないという問題が浮き彫りとなっています。外部から見ても、高齢者の増加に伴う需要と実際の供給のずれが深刻化し、介護人材の不足を一層悪化させています。
これらの課題を克服するためには、介護職の社会的な地位を向上させ、その魅力を広く伝えることが必要です。若手や未経験者にとって、介護業界への一歩が難しく見える現状を改善し、より多くの人々がこの業界に進出するための環境を整える必要があるのです。とりわけその一端として、現行の介護福祉士の平均年収330万円、最低年収は160万円といった報酬体系の見直しが、求められています。
人手不足の解決策とは
職場における人手不足を解決するための対策を解説します。
相談窓口の設置
人手不足は全世界的な課題となっていますが、その解決策として、相談窓口の設置が有力な手段であります。
新たな業界や職種に不安を感じる求職者たちは、経験者のいる相談窓口を通じて自分に合う仕事を見つけることができ、それが人材の流れを促すことにつながります。また、企業は相談窓口を活用することで、求職者の興味を引きつけ、採用活動に役立てることができます。
実際、介護労働安定センターの調査では、相談窓口を設けている職場では、職場環境に対する苦情や悩みが大幅に減少していることが分かっています。また、「職場での人間関係に問題を感じていない」と答えた職員で、相談窓口がある場所で働いている人の割合は42.1%に上り、ない場所で働いている人の割合は22.9%であり、その差は19.2%もありました。
これは、相談窓口が職場の人間関係を改善し、労働環境の整備に寄与している証拠です。気軽に相談できる窓口があることで職員の悩みや苦情が解消され、その結果、更なる労働環境の改善につながるのです。
これらを考慮すると、職場に相談窓口を設けることは、求職者と企業の間のコミュニケーションを円滑にし、人手不足の解消に繋がる有効な方法といえるでしょう。
課題や人間関係の可視化
“人手不足”というウィークポイントに直面している多くの企業、特に現代の労働人口が縮小している事実を考えると、人材を取り込んで雇うこと自体が難問に見舞われています。また、新しい人材を確保するだけでなく、在籍しているスタッフの定着率も重要な問題です。たとえ新たな人材を採用できても、定着率が低いと、これは軽々と水が流れていくだけの穴あきバケツと同じで、重要な資源が無駄になってしまいます。その根本的な解決方法は何でしょうか。
一つの解答が、「組織課題」および「人間関係」の「可視化」にあります。先ず、組織内で発生している問題点を特定し、その対策に直面することが組織課題の可視化です。また、スタッフ間のコミュニケーションや関係性を明らかにし、改善策を模索することが人間関係の可視化です。
幸い、現代では組織課題や人間関係を見える化する「サーベイツール」や、「アセスメントツール」などのITツールが数多く存在します。これらを活用して、問題点を的確に把握し、具体的な改善策を施しましょう。
最後に、公正な評価と適正な待遇を提供することで、スタッフたちが満足度を体感し、その結果としてパフォーマンスが向上し、全体の生産性が向かうことでしょう。このようにして、件の「人手不足」問題が解決に向かうことでしょう。
積極採用を行う
「応募が不足」と感じている企業でも、ハローワークや人材紹介会社への依存に偏り、「待つ」側の採用手法を取り続けているケースが見受けられます。
企業のウェブサイトにある採用情報ページが単調なテキストだけで形成されていないでしょうか?すべての職場は、プライドと働き甲斐を感じて活躍するスタッフによって支えられています。それを「クール」「エキサイティング」と捉えるような情報発信を心掛けましょう。「私たちは大企業ではないので、情報発信に予算を割くのは難しい」と考える方々もいるかもしれませんが、現在、ウェブメディア及びSNSによる情報発信はほとんど費用がかからずに可能です。
さらに、人材紹介会社を利用する場合も、「紹介会社の管理」の視点が重要だと言えます。成功している企業の事例から学びましょう。
どちらの場合でも、ZOOMなどのウェブ会議ツールの普及により、以前よりも手間なく行うことが可能です。人材紹介会社は通常、数千から数万件の求人を取り扱っており、「待つ」だけでは他の数多くの求人に埋もれてしまいます。紹介料に見合う成果を得るためにも、「管理」という視点を持つことが重要となります。
IT・システム導入
介護業界は人手不足が問題となっていますが、ITシステムの導入による効率化と自動化が求められています。その理由は業務プロセスの改善と生産性の向上につながるからです。
まず、ITシステムがもたらす業務効率化について考えてみましょう。日々の日報管理などの煩雑な作業が大幅に短縮されます。特に、介護職員のシフト管理や勤怠管理をシステム化することで、情報の一元化が可能になり、業務の迅速化が期待できます。
また、自動化による生産性向上も重要です。例えば、AIの活用により、反復的な業務を自動的に処理することができます。これにより介護職員は負担を軽減させ、より高度な業務に専念することが可能となります。
さらに、システム導入の利点は人手不足だけにとどまりません。業務フローの改善、ミスの減少、情報共有のスムーズ化など、働き方改革を推進することも可能になります。
給与面での厳しさに悩むスタッフにとって、前払い給与サービスなどの導入は大きな救いとなります。
介護業界における人手不足の解決策としてのITシステム導入は、“対策”だけでなく、組織全体の生産性を高める“戦略”として捉えるべきです。導入に手間がかかるという印象もありますが、最近では手軽に導入できるシステムが増えてきています。
介護福祉士資格取得の推奨
「人手不足」が深刻化している日本の現状では、「介護福祉士」の求人要望が増しています。高齢化が進む中で、その需要は日増しに高まっているため、多くの声が介護福祉士の資格取得を促すように推奨しています。
介護福祉士とは、介護保険法を基にした訓練を学び、専門的な技術を身につけた介護職員で、その資格は給料面や仕事の可能性を広げます。従って、資格を取得してくれる人が増えることで、専門性の高い介護サービスが提供でき、人手不足の緩和に効果を発揮すると見込まれています。
ただ、介護福祉士の資格取得は時間と費用が必要なため、国や地域からの助成や働く環境の改善など、さまざまな側面からの支援が求められています。養成学校に通いながらの手当や、卒業後の借入れ返済免除制度など一部の嬉しい制度も存在しますが、それ以上に働き手と利用者の理想的な環境を作るため、積極的に資格取得を支える体制にすることが大問題であります。
全国民、地域社会、国家が関わるべき深刻な人手不足解消策の中で、介護福祉士の資格取得だけでなく、それを後押しする制度の整備や改良が必要とされています。持続可能な未来の実現へ、こうした改革が一助となるものと期待します。
外国人雇用
日本は、高齢化と少子化の波にあおられながらも、人手不足を感じるニーズが高まっています。この状況に対する解消策として、期待されるのが外国人の労働力を活用するという手段です。
国内の若年層だけを頼りにするのではなく、幅広い年齢層の労働力を確保するためには、高齢者や女性が活躍することも必要となるわけです。しかし、そうした力を必要とする職種、例えば介護の現場などでは、若々しく体力のある労働者が求められるケースもあります。
そこで注目したいのが、日本に対して働く意欲を持つ外国人の力です。彼らは様々な経験やスキルを持った人材であり、また多文化性から新たな発想をもたらすことができます。特に特定の技能を持ち、即戦力となる人材は、迅速に課題解決に取り組んでくれる可能性があります。
ただ、外国人の雇用には、労働法やビザの取得、文化や言語の差異など、解決すべき課題もないわけではありません。これらを克服するためには、企業のサポート体制の確立や、国の奨励策と法制度の改定などが重要となります。
結論として、外国人の雇用は、人手不足を解決する方向として有望な道の一つです。しかしそのためには、障壁となる問題を取り除く取り組みと、外国人労働者に十分な支援を提供する体制が求められます。
人手不足解消の成功事例とは
人手不足を解消した事例についてご紹介します。
社会福祉法人甲山福祉センター甲寿園
メディアでも注目されている特別養護老人ホーム「甲寿園」は、30年以上前から女性が働きやすい労働環境を整備しています。
具体的には、産前産後休暇を8週間設け、つわり休暇や生理休暇、子どもの病気時に休暇を取得できる制度を導入しています。また、男性の育児休暇取得も積極的に奨励しています。
これらの制度の充実により、産休・育休後の職場復帰率はほぼ100%と高く、中には30年以上も同園で働き続ける従業員もいます。
特別養護老人ホーム業界が新規雇用が難しい中で、甲寿園が従業員に長期間働いてもらうための環境整備に成功していることが、その重要性を示しています。
まとめ
介護業界の人材不足は厳しい労働条件と低賃金が主因となっています。解決策として、賃金の見直し、労働環境の改善、キャリアアップ支援等が重要です。また、助成金や税制優遇、外国人労働力の活用等の政策も求められます。本質的には、介護を必要とする高齢者と介護を提供する人材双方が満足できる社会構造の実現が必要です。
よくある質問
なぜ介護職員が不足しているのか?
介護職員が不足している主な理由は、少子高齢化による影響が大きく、その他にも複数の要因が絡んでいます。以下はその主な要因です。
少子高齢化: 日本を含む多くの国で少子高齢化が進んでおり、高齢者の増加に伴い介護ニーズが急増しています。これに対して介護職員の数が追いついていないため、需要と供給の不均衡が生じています。
労働人口の減少: 労働人口が減少していることも、介護職員の不足につながっています。人口減少に伴い、有効な働き手の確保が難しくなっています。
給与水準の低さ: 介護職はその労働の重要性に比して、給与水準が低いとされています。これが介護職に魅力を感じない人が増え、人材確保に課題を抱えています。
労働環境のストレス: 介護職は身体的・精神的な負担が大きく、人間関係のストレスも多いとされています。これが職員の離職や新規参入者の減少につながっています。
資格取得の難しさ: 介護職に必要な資格の取得が難しく、取得までのハードルが高いことも人手不足の要因です。
介護士と介護職員の違いは何ですか?
「介護士」と「介護職員」は、一般的に介護に従事する人を指す言葉ですが、厳密には以下の違いがあります。
介護士:介護のプロフェッショナルを指し、特定の介護関連資格(介護福祉士、社会福祉主事任用資格など)を持つ者を指します。専門的な介護知識とスキルを有し、資格を取得した者が一般的に「介護士」と呼ばれます。
介護職員:広い意味で介護に従事する仕事に携わる全ての人を指します。介護士だけでなく、介護助手、看護師、理学療法士など、様々な資格や職種を含みます。特定の資格を持っていなくても介護業務に従事する者も「介護職員」と呼ばれることがあります。
ただし、これらの用語は厳密に使い分けられないこともあり、文脈によって異なる解釈がされることがあります。