非機能要件とは？システム開発における機能要件との違いや重要性を詳しく解説

システム開発において、機能要件と並んで重要な位置を占める非機能要件。しかし、その重要性は認識されているものの、具体的な定義や実務での活用方法については、多くのビジネスパーソンが理解に苦しんでいるのが現状です。

1. 非機能要件の基礎知識

1.1. 非機能要件の定義と概要

非機能要件とは、システムの品質や性能に関する要件であり、システムが「どのように」動作するかを規定する要素です。機能要件がシステムの機能や動作を定義するのに対し、非機能要件はシステムの質的な側面を規定する重要な要件となります。

例えば、あるWebシステムを開発する場合、「商品を注文できる」という機能要件に対して、「システムの応答時間は3秒以内である」「システムの稼働率は99.9%以上を維持する」といった要件が非機能要件にあたります。このように、非機能要件はシステムの品質を確保する上で不可欠な要素となっています。

1.2. システム開発における非機能要件の位置づけ

システム開発において、非機能要件はプロジェクトの成功を左右する重要な要素として認識されています。開発初期段階での適切な非機能要件の定義は、以下の点で特に重要です：

・プロジェクトのコスト見積もりの精度向上
・システムの品質確保
・運用保守における問題の未然防止
・ユーザー満足度の向上

特に近年では、デジタルトランスフォーメーション（DX）の進展に伴い、システムの安定性や拡張性への要求が高まっており、非機能要件の重要性は一層増しています。

1.3. 機能要件と非機能要件の違い

機能要件と非機能要件の最も大きな違いは、その目的と性質にあります。機能要件がシステムの具体的な動作や機能を定義するのに対し、非機能要件はそれらの機能がどれだけ効率的に、安全に、安定して提供されるかを規定します。

以下に、機能要件と非機能要件の主な違いをまとめます：

【機能要件の特徴】
・システムが「何を」するかを定義
・具体的な機能や動作を記述
・比較的明確な形で要件を特定可能
・テストによる検証が比較的容易

【非機能要件の特徴】
・システムが「どのように」動作するかを定義
・品質や性能に関する要件を記述
・要件の特定や数値化が難しい場合がある
・検証に特殊なテスト環境や手法が必要

1.4. 非機能要件が注目される背景

近年、非機能要件が特に注目されている背景には、以下のような要因があります：

1. デジタル化の加速
ビジネスのデジタル化が進み、システムへの依存度が高まることで、システムの品質や性能が事業の成否を直接的に左右するようになっています。

2. クラウドサービスの普及
クラウドサービスの活用が一般的となり、可用性や性能面での要求水準が高まっています。特に、システムの拡張性や運用保守性といった非機能要件の重要性が増しています。

2. 非機能要件の6大要素

2.1. 可用性・信頼性

可用性と信頼性は、システムの安定稼働を保証する上で最も重要な非機能要件の一つです。具体的には以下の要素が含まれます：

・システムの稼働率
・障害発生時の対応時間
・データのバックアップ方式
・障害復旧時間

可用性要件の具体例として、「システムの年間稼働率99.9%以上」「障害発生時の復旧時間は2時間以内」などが挙げられます。

2.2. 性能・拡張性

性能・拡張性に関する非機能要件は、システムの処理能力と将来的な成長への対応を規定します。主な要素として：

・レスポンスタイム
・スループット
・同時接続ユーザー数
・データ処理量
・将来的な拡張性

性能要件の具体的な例としては、「画面応答は3秒以内」「1時間あたりのトランザクション処理数10万件以上」などが含まれます。

2.3. 運用・保守性

システムの運用・保守に関する非機能要件は、長期的な維持管理の容易さを確保するために重要です。以下のような要素が含まれます：

・監視体制
・バックアップ/リストア
・システム更新手順
・保守作業の容易さ

運用保守性の要件例として、「システム監視は24時間365日体制」「計画停止は年4回まで」などが挙げられます。

3. 非機能要件の具体例と実装方法

3.1. 性能要件の具体例

性能要件の実装では、具体的な数値目標と測定方法を明確にすることが重要です：

主な性能要件の例：
・オンライントランザクションの応答時間
・バッチ処理の所要時間
・データベースの検索性能
・システムリソースの使用率

3.2. セキュリティ要件の具体例

セキュリティに関する非機能要件は、システムの安全性を確保する上で重要です：

セキュリティ要件の実装例：
・認証・認可の方式
・暗号化要件
・アクセス制御
・監査ログの取得

3.3. 可用性要件の具体例

システムの安定稼働を確保するための可用性要件には、以下のような具体例があります：

可用性確保のための実装例：
・冗長構成の設計
・バックアップ/リストア方式
・障害検知の仕組み
・継続的な監視体制

3.4. 保守性要件の具体例

システムの保守性を高めるための要件として、以下のような実装例があります：

保守性向上のための実装例：
・モジュール化された設計
・標準化されたコーディング規約
・テスト自動化の仕組み
・ドキュメント管理の方法

4. 非機能要件の定義プロセス

4.1. 要件定義における非機能要件の位置づけ

システム開発における要件定義プロセスにおいて、非機能要件は機能要件と並んで重要な位置を占めています。非機能要件の定義は、システムの品質を確保するための基盤となります。

要件定義のプロセスでは、以下の点に特に注意を払う必要があります：

・ステークホルダーの期待値の明確化
・ビジネス目標との整合性確保
・技術的な実現可能性の検証
・コストとの適切なバランス

4.2. 非機能要件の洗い出し方

非機能要件の洗い出しには、体系的なアプローチが必要です。以下のステップで進めることが推奨されています：

1. ビジネス要件の分析
2. システム特性の把握
3. 制約条件の確認
4. リスク分析
5. 優先順位付け

特に、独立行政法人情報処理推進機構（IPA）が提供する非機能要求グレードを活用することで、より網羅的な要件の洗い出しが可能となります。

4.3. 非機能要求グレードの活用方法

非機能要求グレードは、システムの非機能要件を体系的に整理するためのフレームワークです。具体的な活用方法として：

・システム特性の可視化
・要件レベルの段階的な定義
・ステークホルダー間での合意形成
・要件の漏れ防止

これらの要素を考慮しながら、プロジェクトの特性に応じた適切なグレード設定を行います。

4.4. 定義書作成のポイント

非機能要件の定義書作成では、以下の点に留意が必要です：

・明確な数値目標の設定
・測定可能な指標の定義
・実現可能性の確認
・検証方法の明確化

5. 非機能要件の評価と検証

5.1. 非機能要件の評価指標

非機能要件の評価には、定量的な指標と定性的な指標の両方が必要です：

【定量的指標の例】
・レスポンスタイム
・スループット
・障害発生率
・復旧時間

【定性的指標の例】
・使いやすさ
・保守性
・拡張性
・セキュリティレベル

5.2. 非機能テストの実施方法

非機能テストは、システムの品質を確保するための重要なプロセスです。効果的なテスト実施のために、以下の点に注意が必要です：

1. テスト環境の整備
2. テストシナリオの作成
3. 負荷テストツールの選定
4. 測定データの収集方法の確立

5.3. パフォーマンステストの実践

パフォーマンステストは、システムの性能要件を検証する重要なプロセスです。主な実施項目として：

・負荷テスト
・ストレステスト
・耐久性テスト
・スケーラビリティテスト

これらのテストを通じて、システムの性能限界や改善点を明確にします。

5.4. セキュリティテストの進め方

セキュリティテストでは、以下の観点からの検証が必要です：

・脆弱性診断
・ペネトレーションテスト
・セキュリティ設定の確認
・アクセス制御のテスト

6. 非機能要件のマネジメント

6.1. プロジェクトマネジメントにおける位置づけ

非機能要件のマネジメントは、プロジェクト全体の成功に直結する重要な要素です。以下の点に特に注意を払う必要があります：

・要件の優先順位付け
・リソース配分
・スケジュール管理
・リスク管理

6.2. ステークホルダーとの合意形成

非機能要件に関する合意形成では、以下のポイントが重要です：

・要件の明確化と文書化
・コストと効果のバランス
・実現可能性の確認
・期待値のすり合わせ

6.3. コスト管理との関係性

非機能要件の実現には、適切なコスト管理が不可欠です。以下の要素を考慮する必要があります：

・初期投資コスト
・運用保守コスト
・スケーラビリティ対応コスト
・セキュリティ対策コスト

6.4. リスク管理の重要性

非機能要件に関連するリスクを適切に管理することは、プロジェクトの成功に不可欠です：

主なリスク管理項目：
・技術的リスク
・運用リスク
・セキュリティリスク
・コンプライアンスリスク

これらのリスクに対して、適切な対応策を事前に準備することが重要です。

7. 開発現場での実践的活用法

7.1. 開発プロセスへの組み込み方

非機能要件を開発プロセスに効果的に組み込むことは、システム開発の成功に不可欠です。以下のような段階的なアプローチが推奨されます：

1. 要件定義フェーズ：
・非機能要件の明確化
・優先順位付け
・実現可能性の検証

2. 設計フェーズ：
・アーキテクチャ設計への反映
・技術選定
・性能要件の具体化

3. 実装フェーズ：
・コーディング規約への反映
・レビュー基準の設定
・性能チューニング

7.2. チーム間のコミュニケーション方法

非機能要件に関する効果的なコミュニケーションは、以下の要素を考慮して実施する必要があります：

・定期的なレビュー会議の開催
・進捗状況の可視化
・課題管理の徹底
・ドキュメントの共有と更新

特に、開発チームと運用チーム間での認識の齟齬を防ぐため、明確なコミュニケーション基準を設けることが重要です。

7.3. 外部ベンダーとの協業ポイント

外部ベンダーとの協業において、非機能要件の管理は特に重要です。以下のポイントに注意が必要です：

・要件の明確な文書化
・責任範囲の明確化
・品質基準の合意
・定期的な進捗確認

また、契約書やSLAに非機能要件を適切に反映することで、期待する品質レベルを確保することが可能となります。

7.4. 運用フェーズでの活用方法

システムの運用段階における非機能要件の活用について、以下の観点からの取り組みが重要です：

・性能監視の実施
・問題の早期発見と対応
・継続的な改善活動
・運用ドキュメントの更新

8. 非機能要件の今後の展望

8.1. クラウド環境における考慮点

クラウド環境での非機能要件は、従来のオンプレミス環境とは異なる考慮点が必要です。主要な検討事項として：

・スケーラビリティの確保
・可用性の担保
・セキュリティ対策
・コスト最適化
・マルチクラウド対応

特に、クラウドサービスの特性を活かした非機能要件の定義と管理が求められます。

8.2. DevOpsと非機能要件の関係

DevOpsの実践において、非機能要件は重要な役割を果たします。以下の観点での取り組みが必要です：

・継続的インテグレーション/デリバリーでの品質確保
・自動化による効率的な検証
・モニタリングの強化
・フィードバックループの確立

DevOpsの文化と非機能要件の管理を効果的に組み合わせることで、より高品質なシステム開発が可能となります。

8.3. AIシステムにおける非機能要件

AIシステムの非機能要件には、従来のシステムとは異なる特有の考慮点があります：

・処理性能の最適化
・学習データの品質管理
・モデルの精度維持
・説明可能性の確保
・倫理的配慮

これらの要件を適切に定義し管理することで、信頼性の高いAIシステムの構築が可能となります。

8.4. 今後の技術トレンドと非機能要件

技術の進化に伴い、非機能要件も進化を続けています。今後注目すべきトレンドとして：

・エッジコンピューティングへの対応
・5G/6Gネットワークの活用
・サステナビリティへの配慮
・セキュリティの高度化

これらの新しい技術トレンドに対応した非機能要件の定義と管理が、今後ますます重要になってきます。特に、システムの環境負荷低減や持続可能性への配慮は、非機能要件として重要性を増しています。

さらに、以下のような要素も考慮が必要です：

・ゼロトラストセキュリティへの対応
・プライバシー保護の強化
・レジリエンスの向上
・カーボンニュートラルへの貢献

これらの要素を適切に非機能要件として定義し、管理していくことが、今後のシステム開発における重要な課題となります。

よくある質問と回答

非機能要件と機能要件の違いは何ですか？

機能要件がシステムが「何を行うか」を定義するのに対し、非機能要件はシステムが「どのように動作するか」を定義します。例えば、「商品を注文する」は機能要件、「応答時間は3秒以内」は非機能要件となります。

非機能要件の具体例を教えてください。

代表的な例として、以下のようなものがあります： ・性能要件（レスポンスタイム、処理能力） ・セキュリティ要件（認証、暗号化） ・可用性要件（稼働率、障害復旧時間） ・保守性要件（メンテナンス性、拡張性）

非機能要件はいつ定義すべきですか？

プロジェクトの初期段階、特に要件定義フェーズで定義することが推奨されます。早期に定義することで、設計や実装に適切に反映させることが可能となります。

非機能要件の優先順位はどのように決めるべきですか？

ビジネス目標、予算、技術的制約、ユーザーニーズなどを総合的に考慮して決定します。特に重要なのは、システムの特性や用途に応じた優先順位付けです。

非機能要件はどのように検証すればよいですか？

性能テスト、負荷テスト、セキュリティテストなど、要件の種類に応じた適切なテスト方法を選択します。また、定量的な指標を設定し、測定可能な形で検証することが重要です。

非機能要求グレードとは何ですか？

IPAが提供する非機能要件の体系的な分類・定義のためのフレームワークです。システムの品質特性を段階的に定義し、要件の漏れを防ぐために活用されます。

クラウド環境での非機能要件の考慮点は？

クラウド特有の考慮点として、スケーラビリティ、可用性、セキュリティ、コスト最適化などがあります。クラウドサービスの特性を理解した上で、適切な要件定義が必要です。

DevOpsと非機能要件の関係性について教えてください。

DevOpsでは、継続的な監視と改善が重要です。非機能要件は、この継続的な改善サイクルの中で、システムの品質指標として活用されます。

非機能要件を定義する際に重要なポイントは何ですか？

非機能要件を適切に定義するためには、開発会社や開発側と協力し、システムのパフォーマンス、可用性、拡張性などを明確にすることが重要です。また、数値目標を設定し、測定可能な形で要件を決めることが望ましいです。

情報システムの開発において、非機能要件はどのように考慮されるべきですか？

情報システムの開発では、機能要件と並行して非機能要件を定義することが不可欠です。特に、運用保守のしやすさや、セキュリティ対策などの要件を事前に策定し、開発プロセスに組み込むことが求められます。

非機能要件の定義が不足すると、どのような問題が発生しますか？

非機能要件が適切に定義されていない場合、開発後にシステムの性能が低下したり、運用が困難になったりするリスクがあります。例えば、アクセスが集中した際にシステムが応答しない、セキュリティが脆弱で情報漏洩が発生するなどの問題が生じる可能性があります。

開発会社に非機能要件を伝える際のポイントは？

開発側とスムーズに連携するためには、非機能要件を具体的に伝えることが重要です。例えば、「可用性99.9%以上」や「最大同時接続数1,000ユーザー」といった定量的な指標を提示することで、開発側が適切に対応しやすくなります。

項目非機能要件の主な分類は？

性能、可用性、セキュリティ、保守性など、システムの品質特性に基づいて分類されます。

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