コラム

PBRとは?企業価値評価の必須指標 | 株価純資産倍率を徹底解説

PBRとは?企業価値評価の必須指標 | 株価純資産倍率を徹底解説

2025年4月2日

経営企画

企業価値評価 株式投資 財務指標

経済産業省や東京証券取引所による資本効率改善の要請が強まる中、今あらためて注目を集めているのがPBR(株価純資産倍率)です。日本企業の約半数がPBR1倍を下回る状況が続き、特に上場企業にとっては企業価値向上の重要指標となっています。本記事では、PBRの基本概念と計算方法から、PERやROEとの関係性業界特性による違いまで体系的に整理。さらに、企業価値評価や投資判断での活用法、日本企業特有の課題、そしてPBRを高めるための経営戦略まで、30-40代の上場企業に勤めるビジネスパーソンが押さえておくべき知識を徹底解説します。

1. PBRの基本概念

1.1. PBR(株価純資産倍率)とは

PBR(株価純資産倍率)とは、企業の株価が1株あたり純資産(BPS)の何倍で取引されているかを示す投資指標です。PBRは「Price Book-value Ratio」の略称で、企業の市場評価と会計上の純資産との関係性を表す重要な指標として知られています。純資産とは、企業のバランスシート上の総資産から負債を差し引いた自己資本のことであり、株主に帰属する企業価値の基礎となる部分です。PBRは企業の資産価値に対する市場評価を反映するため、企業の成長性や収益性に対する投資家の期待度を測る目安となります。特に近年の資本効率重視の流れの中で、日本企業の経営指標としても注目を集めています。

1.2. PBRの計算方法

PBRの計算方法は非常にシンプルです。株価をBPS(1株あたり純資産)で割るだけです。計算式で表すと:

PBR = 株価 ÷ BPS(1株あたり純資産)

例えば、ある企業の株価が3,000円で、BPSが2,000円の場合、PBRは1.5倍(3,000円÷2,000円)となります。BPSは財務諸表から算出でき、「純資産÷発行済株式数」で計算します。なお、自社株保有がある場合は「純資産÷(発行済株式数-自己株式数)」となります。四半期ごとの決算発表で純資産の数値が更新されるため、PBRは定期的に変動します。また株価変動によっても日々PBRは変化するため、財務分析の際には一定期間の平均値を参考にすることも有効です。

1.3. PBRが企業価値評価において持つ意味

PBRは企業の市場価値(時価総額)と会計上の価値(純資産)の比率を表すため、企業価値評価において重要な意味を持ちます。理論的には、PBRが1倍の場合、企業の時価総額と純資産が等しいことを意味し、市場は企業の清算価値と同等に評価していることになります。1倍を超える場合は、市場が会計上の資産以上の価値を認めている状態で、将来の成長性や収益力への期待が織り込まれています。逆に1倍を下回る場合は、市場評価が純資産を下回り、企業の収益性や成長性への懸念が示されていると解釈できます。PBRは業種特性や経済環境によって適正水準が異なるため、単独での判断ではなく、同業他社との比較や時系列での変化を見ることが重要です。

1.4. BPS(1株あたり純資産)の理解

BPS(Book-value Per Share)は1株あたり純資産を意味し、PBR計算の分母となる重要な数値です。BPSは理論上、企業が清算された場合に株主が受け取れる1株あたりの金額を表します。言い換えれば、株主にとっての最低保証額と考えることができます。BPSは以下の要素によって増減します:

  • 利益の蓄積による純資産の増加(BPS増加要因)
  • 配当による社外流出(BPS減少要因)
  • 自社株買いによる発行済株式数の減少(BPS増加要因)
  • 増資による資本金・資本剰余金の増加と株式数の増加(ケースによる)

財務部門との協働や企業分析において、BPSの変動要因を理解することは、PBRを通じた企業価値評価の精度を高めることにつながります。

2. PBRと他の財務指標との関係性

2.1. PERとPBRの違いと使い分け

投資指標として並んで使われることの多いPERとPBRの最大の違いは、比較対象となる財務数値にあります。PER(株価収益率)は「株価÷EPS(1株あたり純利益)」で計算され、企業の利益に対する株価の割高・割安を示します。一方、PBRは純資産(ストック)を基準にした評価であり、企業の資産価値に対する株価の水準を判断するものです。両者の使い分けとしては、PERは収益性や成長企業の評価に適しており、PBRは資産価値や安定企業の評価に向いています。特に製造業や金融業など資産規模の大きい企業はPBRでの評価が有効です。なお、PERとPBRを組み合わせることで、より多角的な企業分析が可能になります。

2.2. ROEとPBRの密接な関係

PBRとROE(自己資本利益率)には理論的に密接な関連があり、PBR = ROE × PERという関係式で表すことができます。この式から分かるように、ROEが高い企業ほど理論的にはPBRも高くなる傾向があります。例えば、ROEが15%の企業と5%の企業では、同じPERであれば前者のPBRは後者の3倍になる計算です。このため、PBRを向上させるには、ROEの改善が不可欠という考え方が経営戦略上重要視されています。実際、グローバル市場ではROEの高い企業ほどPBRが高い傾向が見られ、資本効率の向上が企業価値評価に直結することが示されています。日本企業にとって、ROEとPBRの関係性を理解することは、資本市場での評価を高めるための鍵となっています。

2.3. 自己資本比率とPBRの関連性

自己資本比率は総資産に占める自己資本(純資産)の割合を示す指標で、企業の財務健全性を測るものです。自己資本比率とPBRの関係は一概に言えませんが、一般的に自己資本比率が高すぎる場合、過剰な内部留保による資本効率の悪化を示唆し、結果としてPBRが低くなることがあります。反対に、適切なレバレッジを活用して自己資本比率を適正水準に保ちながらROEを高めている企業は、PBRも高くなる傾向にあります。日本企業に多く見られる高すぎる自己資本比率は、資本コストを上回るリターンを生み出せていない可能性を示し、それがPBRの低迷につながっているケースが少なくありません。財務戦略において、自己資本比率の最適化はPBR向上の重要な要素となります。

2.4. 総合的な企業分析におけるPBRの位置づけ

企業分析において、PBRは単独で使うべき指標ではなく、複数の財務指標と組み合わせて活用することが重要です。効果的な分析フレームワークとしては、以下のような指標の組み合わせが挙げられます:

  • 収益性指標:ROE、ROA、営業利益率
  • 成長性指標:売上高成長率、EPS成長率
  • 安全性指標:自己資本比率、D/Eレシオ
  • 株価評価指標:PER、EV/EBITDA

これらの指標とPBRを組み合わせることで、企業の財務状況を多角的に評価できます。特に企業の成長ステージに応じた指標の重み付けが重要であり、成長期の企業は成長性指標とPER、成熟期の企業はPBRとROEの組み合わせが有効です。財務諸表から得られる定量情報に加え、ビジネスモデルや競争優位性などの定性情報も加味した総合的な分析においてPBRを位置づけることで、より正確な企業価値評価が可能になります。

3. PBRの評価基準と業界特性

3.1. PBRの一般的な目安と解釈

PBRの評価に明確な絶対基準はありませんが、一般的な目安としては以下のように解釈されることが多いです:

  • PBR 1倍未満:純資産(理論上の清算価値)より市場評価が低く、割安とされる
  • PBR 1~2倍:標準的な評価範囲
  • PBR 2~3倍:やや割高、高成長または高収益性が期待される
  • PBR 3倍超:かなり割高、非常に高い成長性や収益性が期待されている

ただし、これらの解釈は絶対的なものではなく、時代や市場環境、金利水準によって変動する点に留意が必要です。また、PBRは会計基準の違いにも影響されるため、国際比較を行う際には会計処理の差異を考慮する必要があります。投資判断や企業分析では、PBRの絶対値よりも相対的な比較や時系列での変化に注目することが重要です。

3.2. PBR 1倍の意味と重要性

PBRが1倍というラインは、企業の市場価値がその純資産(会計上の価値)と等しいことを意味し、企業価値評価において特別な意味を持ちます。理論的には、PBRが1倍を下回る場合、企業を清算して資産を分配した方が株主価値が高まるという解釈も可能です。しかし実際には、継続企業としての価値や将来性、会計上反映されていない無形資産の価値など、純資産に表れない要素も多く存在します。日本では東証上場企業の約半数がPBR1倍未満で推移している状況が続いており、これは日本企業の資本効率の低さや投資家からの期待の低さを示唆しています。東証によるプライム市場上場企業へのPBR向上要請も、この課題を背景としています。企業経営者にとって、PBR1倍のラインを意識した資本政策や経営戦略の立案が重要になっています。

3.3. 業種・業界によるPBR水準の違い

PBRの適正水準は業種や業界によって大きく異なります。これはビジネスモデルや必要資産の規模、成長性などが業種ごとに異なるためです。一般的に以下のような傾向が見られます:

  • 高PBR傾向の業種:IT・ソフトウェア、医薬品、消費財など(無形資産価値が高く、高い利益率)
  • 低PBR傾向の業種:銀行・金融、電力・ガス、素材・資源など(大きな資産規模が必要で利益率が相対的に低い)

例えば、IT企業は少ない資産で高い収益を上げられるビジネスモデルを持つため、PBRが高くなりやすい一方、銀行業は多額の資産(貸出金等)を必要とするため、相対的にPBRが低くなる傾向があります。企業分析では、同業種内での相対比較やセクター平均との乖離に注目することが重要です。また、経営戦略においても業界特性を踏まえたPBR目標設定が求められます。

3.4. グローバル企業と日本企業のPBR比較

国際比較の観点から見ると、日本企業のPBRは欧米企業と比較して全般的に低い水準にあります。2023年時点で、米国S&P500企業の平均PBRが3倍前後、欧州STOXX600が2倍程度であるのに対し、日本のTOPIXは1.3倍程度にとどまっています。この差が生じる要因としては、以下のような点が指摘されています:

  • 日本企業のROEの低さ(資本効率の問題)
  • 過剰な内部留保と現預金保有(資本コストを下回るリターン)
  • 株主還元策の消極性(配当性向や自社株買いの少なさ)
  • 成長期待の低さ(イノベーションや海外展開の遅れ)
  • コーポレートガバナンスへの懸念(取締役会の独立性など)

日本企業がグローバル水準のPBRを目指すためには、これらの課題に対応する経営改革が求められています。コーポレートガバナンス・コードの改訂やプライム市場の上場基準見直しも、日本企業の企業価値向上を促進する取り組みの一環といえるでしょう。

4. 実務におけるPBRの活用法

4.1. 企業価値評価でのPBRの読み解き方

企業価値評価の現場において、PBRは企業の市場評価を純資産と比較する重要な指標です。実務での読み解き方としては、単に数値の高低だけでなく、以下の観点から分析することが重要です。まず、時系列での変化に注目し、PBRのトレンドから企業への市場評価の変化を読み取ります。次に、同業他社との比較を行い、相対的なポジションを把握します。さらに、PBRの変動要因を「分子(株価)の変化」と「分母(BPS)の変化」に分解して分析することで、より深い洞察が得られます。例えば、純資産が増加しているにもかかわらずPBRが低下している場合は、成長に見合った株価上昇が実現できていないと解釈できます。逆に、純資産の伸びを上回る株価上昇によるPBR上昇は、市場の期待値の高まりを示唆します。

4.2. 投資判断・株式分析におけるPBRの使い方

投資判断や株式分析において、PBRは企業の割安度や成長期待を測る有効なツールです。実践的な使い方としては、まず業界平均PBRを基準として個別企業の相対的な位置づけを確認します。同業他社より低PBRの企業は割安である可能性がありますが、同時にROEや利益成長率なども確認し、なぜ割安評価されているのかの本質的な理由を探る必要があります。高PBR企業への投資は、その高評価を支える持続的な成長性や収益力があるかをチェックします。また、PBRと市場環境の関係も重要で、金利上昇局面では全般的にPBRが低下する傾向があります。機関投資家の実務では、PBR-ROEマップを活用し、ROEに対して割安なPBR水準の企業を抽出する手法もよく用いられています。

4.3. 経営企画・IR部門でのPBR活用シーン

経営企画やIR部門において、PBRは企業価値向上の目標設定や投資家とのコミュニケーションに活用できます。多くの企業が中期経営計画においてROEなどと並んでPBR目標を設定していますが、それを実現するための具体的なロードマップが重要です。経営企画部門では、PBRに影響を与える要素(資本効率、成長投資、株主還元など)を特定し、各事業部門への具体的なKPI落とし込みを行います。IR部門では、投資家に対して自社のPBR水準の妥当性や向上戦略を説明する際に、ROEとの関連や同業他社との比較データを活用します。特に海外投資家向けには、グローバル企業とのPBRギャップを埋める具体策を示すことが重要です。実務上のポイントとして、四半期ごとにPBRの変動要因を分析し、IR戦略に反映させることが挙げられます。

4.4. 競合分析における有効活用術

競合分析において、PBRは企業間の市場評価の差異を可視化する有効なツールです。同じ業界内でPBRに大きな差がある場合、その要因を多角的に分析することで競争優位性の源泉を特定できます。具体的な活用法としては、競合他社との間で「事業ポートフォリオの違い」「資本効率(ROE)の差」「成長戦略の評価」「財務健全性」などを比較し、市場評価の差につながる要素を洗い出します。例えば、自社よりPBRが高い競合がある場合、その企業の戦略や投資家向けメッセージングを研究することで自社のPBR向上のヒントが得られることがあります。また、M&A戦略の検討においても、買収対象企業のPBRと自社のPBRを比較することで、取引の妥当性や株主価値向上への貢献度を評価できます。

5. 日本企業のPBR課題と対応策

5.1. なぜ日本企業はPBRが低いのか

日本企業のPBRが国際的に見て低迷している主な要因は複合的です。まず構造的な問題として、日本企業の資本効率の低さが挙げられます。2023年時点で日本企業の平均ROEは約8%と、米国企業の15%前後と比較して依然として低水準にあります。次に、過剰な内部留保と現預金保有が株主資本コストを下回るリターンしか生み出せておらず、結果として純資産価値を十分に活用できていません。また、日本特有の株式持ち合いや安定株主構造が、企業経営者への規律付けを弱め、株主価値最大化へのインセンティブを低下させている側面もあります。さらに、グローバル市場における日本企業の成長期待の低さも要因の一つで、これは少子高齢化による国内市場の縮小や、デジタル化・グローバル化への対応の遅れなどが背景にあります。

5.2. 東証による低PBR改善要請の背景

東京証券取引所は2022年4月の市場再編と並行して、プライム市場上場企業に対してPBR向上への取り組みを要請しています。この背景には、日本企業の国際競争力強化と資本市場の活性化という目標があります。具体的には、プライム市場上場企業に対して、中長期的にPBR1倍以上を目指すよう促すとともに、PBR1倍未満の企業には「資本コストを上回るROE達成」や「持続的な企業価値向上」に向けた取り組みを開示するよう求めています。この要請は単なる数値目標ではなく、コーポレートガバナンス・コードの改訂と連動した包括的な企業改革を促すものです。金融庁や経済産業省も「資本効率の向上」を重視する政策を打ち出しており、政府全体として日本企業の企業価値向上を後押ししています。こうした動きは機関投資家からも歓迎されており、市場からの評価向上につながる可能性があります。

5.3. 資本効率向上とPBR改善の関係性

資本効率(特にROE)の向上は、PBR改善の最も有効な手段の一つです。理論的にも「PBR = ROE × PER」の関係式が示すように、ROEの向上はPBRの上昇に直結します。資本効率を高めるアプローチとしては、主に以下の三つの方向性があります。一つ目は利益率の向上で、事業ポートフォリオの最適化や高付加価値事業への集中、コスト構造の見直しなどが含まれます。二つ目は資産回転率の向上で、在庫や売掛金の適正化、不稼働資産の売却、設備投資の効率化などが方法として挙げられます。三つ目は財務レバレッジの適正化で、過剰資本の株主還元や自社株買いによる資本の圧縮、適切な負債活用などが含まれます。これらの取り組みを総合的に進めることで、資本効率が向上し、結果としてPBRの改善につながります。

5.4. PBR向上に成功した企業事例

日本企業の中にも、効果的な経営戦略によってPBRを大きく向上させた成功事例があります。例えば、電子部品メーカーのA社は、過去5年間でPBRを0.8倍から2.5倍へと大幅に改善しました。その成功要因は、低収益事業からの撤退と成長分野への経営資源集中、海外M&Aによる非連続成長、そして積極的な株主還元策(配当性向の引き上げと機動的な自社株買い)の三位一体戦略にありました。また、化学メーカーのB社は、事業ポートフォリオの入れ替えと並行して資本コストを意識した経営指標を全社的に導入し、各事業部門のKPIとして浸透させることでPBRの向上に成功しています。IT企業のC社は、無形資産への積極投資と非財務情報の戦略的開示によって、企業価値の源泉を市場に効果的に伝達し、PBRの上昇を実現しました。これらの成功事例に共通するのは、単なる財務指標の改善だけでなく、市場との対話を通じて企業価値の正当な評価を獲得する努力を継続していることです。

6. PBRを高める経営戦略

6.1. ROE向上を通じたPBR改善アプローチ

PBRを高めるための最も基本的な戦略は、ROE(自己資本利益率)の向上です。ROE向上に向けた具体的なアプローチとしては、まず「ROE = 当期純利益÷自己資本」の分子と分母の両面からの施策が考えられます。分子(利益)を増やす施策としては、高付加価値事業への経営資源の集中、不採算事業からの撤退、コスト構造の見直しなどが挙げられます。分母(自己資本)を適正化する施策としては、自社株買いや増配による株主還元の強化、政策保有株式の縮減、必要資本を超える現預金の有効活用などが重要です。さらに、ROEを「売上高利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3要素に分解し、自社の課題に応じた改善策を講じることも効果的です。これらの取り組みは単発ではなく、中期経営計画に織り込んだ継続的な改善活動として実施することが重要です。

6.2. 無形資産投資とPBRの関係

近年の企業価値において、無形資産の重要性が高まっています。伝統的な財務諸表には十分に反映されない研究開発、人的資本、知的財産、ブランド、顧客関係などへの投資が、将来の収益力を左右する要素となっています。特に高PBR企業の多くは、これらの無形資産への積極投資が特徴です。無形資産投資とPBRの関係について、研究開発投資の対売上高比率が高い企業ほどPBRが高い傾向にあることが統計的にも示されています。また、人的資本への投資や、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みも、将来の成長期待を高めPBRの向上につながります。無形資産投資を通じたPBR向上のポイントは、単に投資額を増やすだけでなく、投資効率を高め、その成果を適切に開示することにあります。統合報告書などを通じて、無形資産が企業価値創造にどうつながるかを投資家に説明することが重要です。

6.3. 適切な資本政策とPBR

資本政策はPBR向上の重要な要素であり、適切な財務戦略の構築が求められます。具体的には、まず最適資本構成の検討が基本となります。過剰な自己資本は資本効率(ROE)を低下させる要因となるため、自社の事業特性や財務リスクを踏まえた適正水準を見極めることが重要です。次に、株主還元策の強化も効果的です。安定的かつ持続的な増配や、資本効率を意識した機動的な自社株買いは、株式市場からの評価を高める要因となります。多くの高PBR企業は総還元性向を50%以上に設定しており、余剰資金の効率的な活用を示しています。さらに、資本コストを意識した投資判断も重要で、すべての投資案件に対してROIC(投下資本利益率)やIRR(内部収益率)などの指標を用いて資本コストを上回るリターンを求めることが、中長期的なPBR向上につながります。

6.4. 非財務情報開示によるPBR向上戦略

企業価値評価において、非財務情報の重要性が高まっています。ESG(環境・社会・ガバナンス)要素や持続可能性への取り組みが投資判断に影響を与える時代となり、これらの情報を戦略的に開示することがPBR向上につながる可能性があります。非財務情報開示によるPBR向上のポイントとしては、まず統合報告書などを通じた価値創造ストーリーの明確化が挙げられます。財務情報と非財務情報を関連付け、どのように持続的な企業価値向上につながるかを説明することが重要です。次に、重要課題(マテリアリティ)の特定と、それに対する取り組みの進捗・成果の定量的な開示も効果的です。さらに、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などの国際的なフレームワークに準拠した開示も投資家からの評価向上につながります。非財務情報開示は単なるコンプライアンスではなく、投資家との対話を通じた企業価値向上の重要なツールとして位置づけるべきです。

7. まとめ:これからのビジネスパーソンに求められるPBR視点

7.1. 日常業務でPBRを意識するポイント

企業価値向上が経営課題の中心となる中、ビジネスパーソン一人ひとりがPBRへの理解を深め、日常業務に活かすことが重要です。具体的には、まず自社の現在のPBRとその推移を把握し、同業他社と比較しておくことが基本となります。次に、自部門の業務がPBRにどう影響するかを考える習慣をつけましょう。例えば、営業部門であれば利益率の高い商品・サービスの提案が利益向上を通じてROEとPBRに貢献します。製造部門では生産効率化や在庫最適化が資産回転率を高め、間接的にPBR向上につながります。経理・財務部門では、投資案件評価や資本政策立案の際に常にPBRへの影響を念頭に置くことが求められます。日々の意思決定において、「この判断は企業価値向上につながるか」を問いかける視点を持つことが、結果的にPBR向上に貢献する企業文化の醸成につながります。

7.2. 部門間連携における共通言語としてのPBR

PBRは企業価値を表す総合指標として、部門間の壁を越えた共通言語になり得ます。各部門がそれぞれの専門性や業務目標に基づいて活動する中で、時として全社最適よりも部門最適が優先されることがあります。しかし、PBRという共通の指標を介することで、部門間の協働や意思決定の整合性が高まります。例えば、事業部門と財務部門が新規投資の判断を行う際、ROICやIRRといった指標に加えて「この投資がPBRにどう影響するか」という観点から議論することで、より全社的な視点での意思決定が可能になります。また、経営企画部門がPBRを軸にした全社戦略を各部門のKPIに落とし込み、進捗管理を行うことで、企業価値向上に向けた一貫した取り組みが促進されます。部門の垣根を越えた資本効率視点の共有が、結果として企業全体のPBR向上につながります。

7.3. キャリア構築とPBR思考の重要性

これからのビジネスパーソンにとって、PBRに代表される資本効率や企業価値に関する知見は、キャリア構築における重要な武器となります。特に上場企業において、経営幹部への道を目指すのであれば、PBRやROEといった指標への理解と、それを向上させるための戦略立案能力は必須のスキルです。具体的には、財務諸表の読解力はもちろん、それを踏まえた事業戦略の立案、投資家との対話能力などが求められます。また、自身のキャリアパスを考える際にも、「PBR向上に貢献できる経験や知見を積めるか」という視点で判断することも有効です。例えば、高収益事業の立ち上げ、コスト構造改革プロジェクト、M&A実務などの経験は、資本効率改善に直結するスキルとして評価されやすくなっています。変化の激しいビジネス環境において、企業価値創造の本質を理解したビジネスパーソンの価値は今後ますます高まるでしょう。

参考資料・参考文献

本記事の作成にあたり、以下の資料・文献を参考にしています。さらに詳しい情報や最新の動向については、これらの資料も参照してください。

  • 経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(2023年)
  • 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2021年改訂版)
  • 日本IR協議会「統合報告・ESG開示参考事例集」(2022年)
  • 一般社団法人日本取締役協会「資本効率経営のすすめ」(2021年)
  • 金融庁「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年)

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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資や経営判断の意思決定を推奨するものではありません。記事内容の信頼性・正確性には万全を期していますが、個別の状況に応じた判断は、適切な専門家にご相談ください。

よくある質問と回答

PBRが1倍を下回る企業への投資は割安といえるのでしょうか?

PBRが1倍を下回る企業は理論上、純資産(会計上の価値)よりも市場評価が低いため「割安」と考えられがちですが、単純にそう判断するのは危険です。PBRが低い理由として、収益性の低さ(低ROE)、将来の成長性への懸念、業界全体の構造的問題などが背景にある可能性があります。特に長期間PBRが1倍を下回っている企業は、資本効率に本質的な課題を抱えているケースが多いです。投資判断では、PBRの低さだけでなく、ROEの動向や経営戦略の変化、資本政策の見直しなど、今後改善につながる具体的な取り組みがあるかを確認することが重要です。割安株投資の観点では「安いには安い理由がある」という格言を念頭に置き、多面的な分析を行うべきでしょう。

PBRとPERはどのように使い分けるべきですか?

PBRとPERはどちらも株価評価の重要な指標ですが、その特性と使い分けのポイントがあります。PBRは企業の純資産(ストック)に対する市場評価を表し、企業の資産価値や財務健全性の評価に適しています。一方、PERは企業の利益(フロー)に対する市場評価を表し、収益性や成長期待の評価に向いています。業種別の使い分けとしては、製造業や金融業など多額の資産を持つ企業の評価にはPBRが有効で、IT・サービス業など少ない資産で高い利益を生み出す企業の評価にはPERが適しています。企業分析においては、単一指標に依存せず、PBRとPERを併用することで、バランスの取れた評価が可能になります。例えば「PER・PBRマトリクス」を作成し、両指標から総合的に企業の割安度を判断する手法もよく活用されています。

日本企業のPBRが低い理由は何ですか?

日本企業のPBRがグローバル企業と比較して低い理由は複合的です。第一に、日本企業のROE(自己資本利益率)が国際的に見て低水準である点が挙げられます。2023年時点で、日本企業の平均ROEは約8%程度であり、米国企業の15%前後と比較して大きな開きがあります。第二に、過剰な内部留保や現預金保有により、資本効率が低下している点も要因です。多くの日本企業が資本コストを上回るリターンを生み出せていない状況が、市場からの評価を下げています。第三に、株主還元への消極的姿勢も影響しており、配当性向や自社株買いの規模が欧米企業と比較して小さい傾向にあります。さらに、日本特有の株式持ち合いや安定株主構造が、経営規律の弱さにつながり、株主価値最大化へのインセンティブを低下させている側面もあります。これらの課題に対応するため、コーポレートガバナンス改革や市場再編が進められています。

ROEとPBRの関係性について教えてください

ROE(自己資本利益率)とPBRには理論的に密接な関係があり、「PBR = ROE × PER ÷ 資本コスト」という関係式で表されます(中長期的に安定した成長を前提とした場合の理論値)。つまり、ROEが高い企業ほどPBRも高くなる傾向があります。例えば、同じPERの企業でも、ROEが15%の企業とROEが5%の企業では、理論上前者のPBRは後者の3倍になります。実際の市場データを見ても、グローバルではROEとPBRには強い相関関係が確認されており、日本企業においてもこの傾向は同様です。このため、PBR向上を目指す企業にとって、ROE改善は最も効果的な手段の一つとなります。ROE向上のためには、利益率の改善、資産回転率の向上、適切な財務レバレッジの活用という三つのアプローチがあり、自社の業種特性や経営課題に応じた取り組みが求められます。

PBRを向上させるために経営者が取るべき施策は何ですか?

PBR向上のために経営者が取るべき施策は多面的です。まず基本となるのはROE(自己資本利益率)の向上です。具体的には、①高付加価値事業への経営資源集中による利益率改善、②在庫・売掛金の適正化やCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)短縮による資産効率化、③過剰資本の株主還元や適切な負債活用による財務レバレッジの最適化、が三つの柱となります。次に重要なのが資本政策の見直しです。配当性向の引き上げや機動的な自社株買いなどの株主還元強化、政策保有株式の縮減、ROICを基準とした投資規律の徹底などが有効です。加えて、無形資産への戦略的投資も重要で、研究開発、人的資本、デジタル化などへの投資が将来の成長性を高めます。最後に、これらの取り組みを投資家に適切に伝えるIR活動の強化も不可欠です。統合報告書等を通じた非財務情報の戦略的開示により、企業価値の正当な評価獲得を目指すべきでしょう。

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