飲食店が人手不足に陥る理由とは?背景や対策を解説
飲食業界の舞台裏には、「人手不足」という闘いが常に続いています。
客席は満席、口コミも好評、ようやく固定客も増え、経済的安定感が見えてきたはずのある日、突如として人手が居なくなる。スタッフがひとり減るだけで、その影響はレストランの業績に直結します。
ここでは、飲食店が人手不足に陥る理由を探り、実際に行われている対策や背景にある問題を深掘りします。その先に見えるのは、時に厳しい現実かもしれませんが、改善に向けたヒントでもあります。
目次
飲食業界で人手不足が起きている理由とは
飲食店が人手不足に陥りやすい理由をご紹介します。
賃金が低い
現代の日本の社会問題といえば、飲食業の労働力不足が急速に深刻化しています。
その主な要因は、賃金の低さが考えられます。消費者の欲求に応えるために店舗数は増加し、経営が複雑化しますが、これに見合った報酬が労働者に提供されていないと言わざるを得ません。
飲食業界は、長時間勤労と休日無休が常態化し、労働集約的です。しかも、賃金は他業種と比べてそれほど高くはなく、労働者が見合った報酬を受け取ることは難しいという残酷な現実が広く認識されています。
キャリアパスが明示されていないことや、能力開発の機会が限定的であるため、労働者が新たな技能を修得して賃金を上げる可能性はほとんどありません。
厚生労働省の令和2年賃金構造基本統計調査によれば、産業別の月給は男性が最も収入が多い「金融・保険業」が約43万円、女性の最高賃金が「情報通信業」で約32万円である一方で、「宿泊業・飲食サービス業」は男女ともに月給が約21万円と最低水準です。
さらに、賃金の上昇率も限定的で、一般的に45歳から50歳のピークを過ぎると下降し始めます。これは、経験を積んでも、賃金が大幅に上がることは難しいという現場の現状を物語っています。
このような状況は、飲食業における人材確保の難しさを一層深刻化させています。
しかし、働く環境を改善し、価値に見合った賃金を提供し、そして働きがいのある職場を作ることで労働力不足の問題は解決できるでしょう。
研修期間が短い
飲食業界、特に個人経営や小規模な店舗では、新入社員の研修期間が極端に短いという問題が生じています。
理由としては、店の運営が忙しく手が回らない、または人件費の削減が挙げられます。結果として、新人スタッフに対する一対一の指導が、仕事開始初日だけというケースが多く見られます。
この結果、未熟なままの新人スタッフは仕事の内容についていけず、モチベーションが下がり、退職する可能性が高まります。
さらには、短い研修期間では十分な接客力を育てることができず、顧客満足度を満たすことが難しくなるため、意図せずに顧客離れを引き起こす可能性があるのです。
このような状況を防ぎ、顧客満足度を高めて売上を向上させるためには、新人スタッフへの適切な研修の設けることが重要です。
特に飲食業界では、人材は最高の資産であり、その長期的な成長と安定には欠かせない要素となるため、しっかりとした研修期間と、その後のフォローアップの必要性は誰にとっても明白です。
研修期間を適正に設定し、その内容を充実させることで、スタッフのモチベーションを保つとともに、高い接客力を身につけることができます。
休憩時間が確保できない
飲食店での労働は、休憩時間が確実に設けられていない超過労働が横行している問題の象徴とも言えます。
閑散とした時間帯もほぼ存在せず、絶え間なく客が出入りする繁盛店では、休憩時間中でも急な混雑により労働に戻るよう要求されることが日常茶飯事です。
また、休むべき時間帯でもしっかりとした休暇が取れない現状も見逃せません。
勤務時間が終わっても、電話対応や業者への対応など、立て続けに求められる業務があり、労働時間外でも休憩時間を十分に取ることが難しい場合が多いのです。
このような厳しい労働環境が人手不足という問題を引き起こしています。新たにこの業界に進出したい人々にとっては敬遠されがちな職場環境であり、既に働いている人々からすると辞めたいと思う環境とも一致します。労働者のリフレッシュの時間を保証し、働きやすい職場を作り出すことが、この業界の大きな課題となっています。
休みが取りにくい
飲食業界は、一日の始まりから終わりまで、さらには週末や祝日にも営業を続けるため、スタッフが休みを取ることが困難な職場が多いのが現状です。
その一方で、急な団体客の対応や他のスタッフの欠勤への対応などで、予定外の出勤を求められることも珍しくありません。
かつては、これらが飲食業界ならではの厳しさと捉えられていましたが、今日では働き手からみれば、理想的なワークライフバランスとは遠い働き方です。結果的に、これらの環境が新たな人材の参入を妨げ、人手不足を深刻する原因となっています。
この問題解決の一策として、スタッフの休日確保や休息時間の確立が重要となります。適切な労働時間の管理により、離職率の低下と新規就業希望者への魅力向上が見込まれます。飲食業界の働き方改革は、取り組みを始めるのに遅すぎるということはありません。
仕事量が多い
日本の飲食業界は近年、厳しい人手不足に直面しています。その根本的な問題は、スタッフ1人あたりの仕事量の大きさにあります。多くの飲食店では朝から深夜、場合によっては24時間体制での営業が求められ、これによりスタッフは多数のシフトに分けられ、連続的な労働が必須となる厳しい労働環境が形成されています。
スタッフは、高い調理技術だけでなく、人間関係の摩擦の解消、清掃業務、在庫管理といった多種多様なスキルを求められます。また、厳しく体力を消耗する仕事に加え、休日が不規則であることも特徴的です。そのため、少ない労働時間や安定した生活を求める労働者からは、往々にして避けられてしまう傾向があります。
しかしながら、飲食業界は日本の文化を豊かにし、社会全体の活気に貢献する重要な産業とも言えます。人手不足が深刻化する中で、各店舗には効率的な業務運営と働きやすい環境作りが求められています。一方で、飲食業界が継続的に発展し続けるためには、社会全体からのサポートと理解が欠かせません。そうでなければ、スタッフは自身が担うべき仕事量や厳しいスケジュールと比較して報酬が見合っていないと感じ、不満を抱くことでしょう。
責任を押しつけられる
飲食業界は現在、深刻な人手不足に悩まされています。その背後には「責任の押しつけ」が存在するという現実を、見過ごしてはなりません。
高度なスキルが求められつつ、過度な残業、休日出勤、そして低賃金という厳しい労働条件が、新たな人材を業界から遠ざけています。また、業績が良好でない場合や、法令遵守に問題が起こったときには、現場の責任者に負担が降りかかることがしばしばあります。
接客ミスや料理の失敗など、個々のミスに対しても、責任を全うするという名の下に、現場のスタッフにその重責が落ちてきます。この事実は、飲食業界だけでなく、サービス業全体における現象と言えます。
「責任の押しつけ」は、飲食業界の人々にとって重石となり、人手不足の深刻な原因となっています。業界全体における労働環境の改善と改革が求められています。
小規模で運営する飲食店では、経験の浅い従業員でも熟練社員と同じ仕事を任され、それに伴う高い責任感を持つことも多くあり、未経験者にもかかわらず、ミスが許されない状況に追い込まれることもよくあります。
また、経験やスキルレベルに関わらず重い責任を背負わされると、スタッフは大きなストレスを感じ、職場の魅力を見失ってしまいます。
新人スタッフが初めて作業しているのに、特別な配慮ができない状況もあります。そのような時は、失敗を非難するような指示ではなく、成功した点に焦点を当て、具体的に褒めるようにすることが推奨されます。
具体的には、「料理の盛り付けが良かった」「接客時の表情が素敵だった」など、上手にできた部分を褒めて伝えることです。
そうすると、「自分の行動をしっかりと観察してくれている」と感じるスタッフのモチベーションが上昇し、職場への献身性も向上します。
「責任を押し付ける」のではなく、「あなたに期待している」という立場を伝えることも重要です。
新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスの影響で、飲食業界が人手不足という大波に襲われています。
まず、飲食店のオーナーたちがスタッフの募集に丁寧な姿勢をとっていますが、その理由の一つは、感染リスクの高さにあります。一般的に、若年層が重症化する確率は低いとされていますが、もちろん無難とは言えず、そのため求職者を募ること自体が困難な状況となっていました。
更に、新型コロナウイルスの流行は、飲食店を対象とした求職者の視線を外に向けさせました。外出自粛や緊急事態宣言による営業時間の短縮・休業が飲食業界の安定性を揺るがし、多くの人が飲食業界への就職を控えるようになったためです。
新型コロナウイルスの影響が、この飲食店の人手不足の主要な原因となっていることは間違いありません。この状況を解消し、飲食業界の安定性を維持・向上させるためには、速やかな解決策が求められています。飲食業界は、客との対面が必須で、コロナの影響から逃れるのが難しい業界であることから、人手不足の問題は一層厳しいものとなりました。
スタッフを増やせない
日本の飲食業界は、人口減少や多様化する就職オプションの影響で、人手不足を深刻に感じています。厳しくなる労働条件や若者たちの「ホワイト企業」志向の急増により、飲食業は敬遠される傾向にあります。業務時間の長さや休日の少なさ、低い収入などが、この傾向を強めています。
さらに、新型コロナウイルスの影響により売り上げが落ち込み、資金繰りに困り、人件費を増やす余地がない店が増えているのが現状です。また、感染予防のために席数を削減し、新たな人員募集を見合わせる店も存在します。
ワークライフバランスの改善や、業界のイメージアップ、そしてコロナに打ち勝つ手段は幾つか考えられますが、それらを実現するのは至難の業です。その問題解決には、国や業界全体の協力が不可欠です。我々の役割は、地元の飲食店を支え、飲食業界の成長を助けることです。
一方で、売り上げが落ち込み、極少の利益しか出せない小規模な飲食店も存在します。これらの店舗では、限られたスタッフで営業することが常態化しています。特に個人経営の場合、利益がそのままオーナーの収入となり、人件費増加は厳しく、それが低売上の場合、オーナーの生活費を確保する為にスタッフ雇用は最低限に抑えざるを得ない状況が生まれています。
これらの場合、人手不足対策に着手する前に、まずは売上向上に重点を置くべきです。
飲食店の人手不足を解消する解決策とは
飲食店の人手不足は、具体的にどのように解決していけばよいのでしょうか。
労働条件の改善
飲食店が直面する人手不足は、営業時間の短縮や業績の悪化を引き起こすだけでなく、その存続さえも危ぶむほどの深刻な問題です。しかし、この難題の解決法がすぐそこにあることに、意外なほど気づかないケースが多いのではないでしょうか。
具体的な施策としては、雇用形態を多種多様にしたり、柔軟なシフト制度を導入することで、学生から主婦まで幅広い層からスタッフを募ることが考えられます。また、裏を返せば、従業員が辞めてしまう理由は待遇に対する不満が大きな部分を占めているとも言えますので、給与や福利厚生の改善により長期にわたって忠誠を尽くしてくれる人材を獲得することも可能です。
さらに、飲食店における厳しい労働環境を改良するため、労働時間の短縮や休日の設定など、健康的な労働生活が送れる環境を作ることが重要です。
競合店と比べて労働条件が厳しくないか、常にチェックすることも大切と言えます。これらの施策により労働条件が改善されれば、店は自ずと離職率が低下し、人手不足の解消へと繋がります。最初の一歩として、労働条件の見直しという行動を起こしましょう。
認知度の向上・人員募集
日本全体に及んでいる飲食業では人手不足が切実な課題として浮かび上がっている中、この問題の解決には「認知度の向上」と「採用戦略」が非常に重要であると注目されています。
「認知度の向上」について見ていきましょう。これは自店舗のブランドや存在感を引き立てることであり、人々が自店舗を認知し、訪れる機会を増やすことで次第に繁栄へとつながります。しかも、店舗の魅力が更に認知されれば、人材集めにもつながります。ウェブサイトやSNSの効果的な使い方、地元のイベントへの参加など、店舗の魅力を適切にアピールする手段はたくさんあります。
続いて、「採用の戦略」に焦点を当ててみましょう。ただ求人広告を掲載するだけでなく、興味を引く工夫を施した広告で魅力を伝えることが大切です。明確に働くメリットを伝え、応募のハードルを下げるメッセージが効果的です。また、充実した福利厚生やスタッフ同士の良好な関係性など、働きやすい環境作りも大切な採用の戦略となります。
人手不足は飲食業における一大課題ですが、これら「認知度の高揚」と「採用の戦略」により乗り越えることが可能です。人々があなたの店で働きたいと望むような場所を維持するために、今が新たな取り組みの始め時かもしれません。
外国人・シニア層の採用
近年、進行する少子高齢化により飲食業界の人手不足が深刻化しています。その解決策として、現在では外国人や高齢者の積極採用が考えられており、この動向は多様な人材を活用し、ビジネスの発展に貢献する可能性を秘めています。
特に、飲食店で働く多くの外国人スタッフは、店舗に国際的な雰囲気を持たせており、これが外国人観光客からの人気を集める要因にもなり得ます。また、留学生など日本語に堪能な外国人も増えており、本格的な日本のサービスを提供することが可能です。
一方で、飲食業界は厳しい労働環境であるため、「シニア層の採用は難しいのでは?」との懸念もあります。ですが、良好な労働条件を整えることで、長年培ってきた経験と安定感を持つシニア層の採用も可能になるでしょう。
しかし、外国人やシニアの採用に当たっては、労働法規や待遇、労働環境などを十分に理解し、彼らが安心して働ける環境を作ることが必要です。企業側の理解と協力が、飲食業界の労働力不足解消に大きく寄与することでしょう。
評価制度の制定
飲食店での働き続けるためには、努力が報われる環境が重要と考える方は少なくありません。そのための有効な手法と考えられるのが「評価制度」です。
ちゃんと評価され、自身の成長を感じられる評価制度は、働くスタッフのやる気を引き出し、成果に繋がると期待されています。さらに、適切な評価にもとづく給与や特別手当などの待遇の改善は、職場の魅力を向上させ、人々が長く働き続けるためのインセンティブともなります。
人材の確保とその維持は、雇用の安定性が求められる飲食店にとってチャレンジとなります。この問題への解決策の一つとして、評価制度の導入は有効であり、それにより離職率の低下や人材の獲得が期待できます。
手立てを全て試してもなお、人材不足の解消が難しい場合、補助金や助成金の利用を考えてみてください。特に、コロナ禍では、給付金などの支援制度が広く知られ、活用されました。それぞれの対象となる条件を確認してみましょう。
給付金・補助金・助成金の利用を検討
考えられる手段として、人手不足の克服に苦しむ場合、自身の店舗が給付金・補助金、または助成金を活用できるかどうかを検討してみましょう。
新型コロナウイルスの影響により、多くの飲食店が経営難に直面した影響で、給付金などの制度の認知度が高まっています。
2023年2月現在、以下の制度が存在します。これらは小~中規模の飲食店の課題解決を支援するものであり、概要を確認することをお勧めします。
- 小規模事業者持続化補助金
- 事業再構築補助金
- IT導入補助金
- 雇用調整助成金
助成金と補助金の違いは分かりにくいかもしれませんが、一般的に言えば、助成金は一定の条件を満たせば比較的容易に受け取れる可能性が高い一方で、補助金は条件が厳しいものの受け取れる金額が相対的に高い傾向があります。
ITツールの導入
飲食店業界における人手不足は切実な課題となっていますが、この課題に対処するために、多くの店舗がITツールの導入に取り組んでいます。
具体的には、情報技術を活用するということで、その結果、業務の簡略化と効率化が実現可能となります。
例えば、注文管理システムの導入です。タブレットやお客様のスマートフォンに対応したシステムを採用することで、ホールスタッフがテーブルまで注文を取りに行く手間が省けます。これにより、「仕事量が多すぎる」というスタッフの不満を解消し、よりよい働き方を実現する可能性が広がります。
予約管理や在庫管理などもITツールの導入で自動化できます。これにより、細かい作業が減り、スタッフがより本質的な業務に集中できるようになります。
勤怠管理にデジタル化が進み、PC上で自動的に管理が行えるようになると、バックオフィス作業の時間削減が可能となります。こうした人為的なミスを減らす策は、業界全体の働きやすさ向上に大いに貢献するでしょう。
ITツールの導入は、一部の難解な問題を解消するだけでなく、飲食店業界全体の業務改善に繋がるといえます。飲食店が未来に向けて進化を遂げるために、ITツールの導入は避けては通れない道となっています。
まとめ
飲食店の人手不足は、社会的背景、労働環境、技術革新の遅れなどが原因です。解決策としては適切な雇用制度の見直し、業務効率化のための技術導入、従業員の働きやすさを重視した経営方針の確立が必要です。これらに取り組むことで、持続可能な飲食業界の発展が期待できます。