学習する組織とは?考え方・5つのディシプリンについて詳しく解説
今日、組織運営の領域でよく耳にするフレーズが「学習する組織」です。この表現はどのような意味を持ち、なぜ多くの企業や団体がこれを目指すのでしょうか?本記事では、「学習する組織」の考え方とその鍵となる5つのディシプリンについて、詳しく解説していきます。これを理解することで、組織の成長、進化、そして持続可能な成功への道筋が見えてくるでしょう。
学習する組織とは?
学習する組織とは、組織全体で知識をシェアし、学び、成長を続ける能力を持つ組織を指します。自己反省を通じて行動を修正し、新たな知識を創出し、それを組織内で効果的に利用することで、組織は進化を続けます。
失敗も学ぶための一部と捉え、その経験を活用すべく取り組みます。その結果、常に学び続け、新しい知識を組織全体で取り入れ、個々の能力以上の成果を生む組織となります。
学習する組織とは、組織全体が学習の文化を共有し、トップダウンだけでなく、ボトムアップの情報共有や意思決定、そして各プロセスでのフィードバックを重視することが不可欠です。
学習する組織において、経営者は非常に重要な役割を果たします。経営者は組織内のビジョンと目標を策定し、戦略を立て、組織全体に方向を示すリーダーです。組織が様々な問題に対応し、持続的な成長と進化を実現するためには、学習する組織という概念を追求することが必要不可欠となります。
「学習する組織」の理論は、ハーバードビジネススクールの名誉教授であるクリス・アージリスと、マサチューセッツ工科大学の教授ドナルド・ショーンによって1970年代後半に提唱され、ピーター・M・センゲによって1990年に「最強組織の法則」を通じて広められました。日本では、この考え方は1995年に紹介されました。
学習する組織の3本の柱とは
学習する組織には、3つの柱があります。システム思考は複雑な問題を根本から解決する能力で、共創的な会話は異なる立場の人々が共通のビジョンを築く力を指します。適応能力は変化に適応し、柔軟に行動するスキルです。これらの柱が組織と個人の成長と競争力向上に寄与します。学習する組織の3本の柱について解説します。
学習する組織の3本の柱とは:志の育成
3つの要素の内の一つが「志の育成」。つまり、全組織が一つの目的を目指し共に努力する志を醸成するということです。
これは組織が自身のビジョンを明瞭に捉え、その達成に向けた行動方針を示すために欠かせません。 志を育てるためには、まず各従業員が自分の役割とそれに伴う責任を把握することが大切です。
また、自身の行動が組織全体にどのように影響を及ぼすかを理解し、目標達成のための不屈の精神を持つことが求められます。
優れたリーダーは、この志を高く持つことの価値を従業員に認識させることが大切な役割を果たします。 組織として共有した志を持つことが重要なのは、個々の成果を全体の成功へ繋げる重要な要素となるからです。
学習する組織の3本の柱とは:複雑性の理解
学習する組織の中核となるのは、’複雑性の掌握’です。
現代の組織が直面する問題は多面的で予断を許さず、そこから逃げ出すことなく、複雑性と向き合う力が必要とされます。
変化や出来事の交錯を認め、当該課題を組織全体で把握・共有する力、それこそが学習する組織の決定的な資質です。
複雑性は常に新たな視角や挑戦をもたらし、それを掌握することで組織は次へとステップアップします。そのバックボーンとなるのが’複雑性の掌握’であり、この要素が強靱な三本の柱となり得るのです。
学習する組織の3本の柱とは:共創的な会話の展開
組織の学習を促進するには、共創的な対話を展開できる能力が必要です。共創的な対話は、異なるバックグラウンドや視点を持つ人々が協力し、新しいアイデアや解決策を共同で創り出すプロセスを指します。
組織内で重要なのは、他の人の視点や意見に耳を傾け、自身の考えだけでなく多様な視点を尊重し、議論することです。共創的な対話を通じて、個人の理解と他者の理解を統合し、新たな知識や洞察を得ることができます。
センゲの学習する組織とは:5つのディシプリン(学習領域)
ピーター・M・センゲの「学習する組織」の理論は、枠組みにとらわれずに連続的な改革と成長を促進し、一層の成熟を達成するための指針を示しています。その核となる5つのディシプリンを解説します。
5つのディシプリンとは:自己マスタリー
「自己マスタリー」は容易に手に入る能力ではなく、いかに技術的に優れていても、絶え間ない改革と自己啓示の精神が必要です。 自己マスタリーとは、自身の思考パターン、行動、反応を管理し制御する技量を育てることを意味します。
自己マスタリーは、自己の誤解や感情反応を管理し、より意図的で目的地に向かった行動を培う手段です。さらに、自分自身を深く理解し、自身を受け入れる境地を達成する方法ともなります。
自己進化と自己認識を実現するための絶え間ない努力を自己マスタリーが意味しています。自身のポテンシャルを最大限に引き出し、自らの可能性を最大化する道を示します。
自己マスタリーは、組織学習の基本的なディシプリンの1つであり、従業員が組織全体の学習と成長に貢献する重要な要素です。従業員の自己マスタリーが強化されると、組織全体がより効果的に学び、進化し続けることが可能となります。
5つのディシプリンとは:メンタル・モデル
「メンタル・モデル」は、自分や他人、あるいは環境や事象がどう働いているかを把握するための心の中の地図や理論のようなものです。
自分の中に作り出される世界観のミニチュア版で、知っている情報を元に新たな状況を予想し、問題解決に繋げる重要な道具でもあります。 メンタル・モデルの進化と共に、自分自身の見方や考え方が変わり、改善されることで、他人への理解も深まるでしょう。
自分がどのような立場にいるか、自分がどのような状況にいるのかを、主観ではなく客観的に把握する力も身につきます。
メンタル・モデルは、自分ひとりの成長だけでなく、グループや組織全体の発展にも大いに貢献します。「深く定着した前提や一般概念、あるいはイメージ」が、私たちの行動や世界観を構築します。
センゲは、実際の現象とメンタル・モデルとのギャップが有効な行動を妨げると指摘し、「メンタル・モデルを学習の障害とならず、逆に進歩させる道具」として活用するべきだと説いています。
例えば、売り上げ拡大を図る上で、広告費を増やすことが成功へ導くとしたら、これが行動パターンとなり、信念化します。 しかし、時が経てば広告費を増やしても売上は伸びなくなります。その理由は、商品自体が時代遅れとなっているからです。
この時点で自分のメンタル・モデル、「増広宣伝費=売上拡大」という固定観念を見直す必要があります。 この固定観念こそが、現実を認識するパターン、つまり「心のクセ」です。「メンタル・モデル」の修正は、後述のシステム思考によって更新し、変革する方法があります。
5つのディシプリンとは:共有ビジョン
「共有ビジョン」は、組織のメンバー全員が共有し、一緒に目指す未来のイメージのことであり、それが多様な活動に一貫性を与え、組織の統一性を生み出す役割を果たします。
成功への道のりのうちのひとつとなるこの共有ビジョンは、個々の目標を超えて全体としての明確な目標を作り、それを追い求めることでチーム全体の力を引き出す役割を果たします。
ただし、異なるビジョンを持つ複数の人々が一つのビジョンを共有することは容易ではなく、ビジョンの形成から共有、維持までのプロセスが求められます。
単独に根付いたビジョンだけでなく、組織全体として共有し、信じられるビジョンを具現化することで、組織の持続的成長を促進します。
成功のための道筋として「共有ビジョン」を適切に構築し、皆で共有し背負い続けることで、組織全体として一体感や協調性を高め、目指すべき未来に一歩一歩近付いてゆくことが可能となります。
5つのディシプリンとは:チーム学習
「チーム学習」は、ピーター・M・センゲが主張する学習組織を形成するための基本原則の一つであり、それは「メンバーが一丸となって目標へと向かい、その道のりを共に学び、成長し続ける過程」です。
チーム学習の中心には、全メンバーが共に学習し、能力を伸ばし、結果を出す力を持つという理念があります。それには、組織全体が同一のビジョンを共有し、そのために協力して動くことが必要となります。
しかし、個々のメンバーが持つ価値観やエネルギーの向かう方向が一致しなければ、その結果は無駄な労力や混乱を招く事になります。
センゲはチーム学習において、全メンバーが共に複雑な問題を解決したり、革新的な行動を共に取ったり、互いの役割を理解し、それを全うすることが重要であると指摘します。そして、それを達成するためには、対話と討論の二つの通信手段と、それらを使いこなす訓練が不可欠であると述べています。
対話を通じて一人ひとりの意見や考えを自由に共有し、各自が他者の話に注目してリスニングすることで、複雑な課題を探求します。そして討論を通じて、各自の意見を積極的に発言し、それを元に最良の決定を導き出します。
5つのディシプリン:システム思考
システム思考においては、「全体」の把握が優先され、「部分」の理解も結果として得られるとされます。任意の組織やチームの中で、特定の問題に集中するのではなく、全体としてのパターンや構造を探求することで、より深い認識と問題解決へと結びつきます。
また、システム思考では全体の動きを認識することで、未来を推測し、その結果を現行のアクションに反映することが可能となります。これにより、将来発生する可能性のある問題の予測とそれに対する早急な対応が可能になります。
真の指導者とは、個々の視点ではなく全体を見渡す、つまりシステム思考を有していることです。これは、組織が革新と成功を遂げるために不可欠なテクニックとなっています。
たとえば、人手不足を解消するために人材採用を進める場合でも、雇用難が続いている場合、採用基準を下げて人材を急ぎ採用することは逆効果になります。 採用基準を下回った人材は離職が早く、人手不足の解消には至りません。
このような状態を避けるため、システム思考に基づいて全体の流れを理解し、状況に応じた行動を起こすことが重要です。
センゲの学習する組織とは:7つの学習障害
1980年代、ピーター・M・センゲが「The Fifth Discipline(最強の組織の法則)」を発表する前、米国の企業は日本企業の台頭に対応できず、国際競争力が低下し、企業の倒産率が増加していました。
センゲは、この問題の原因を、「企業は学ぶ能力が不足しており、生き残ることはできても、潜在能力を十分に発揮できていない可能性がある」と指摘し、企業には以下の学習障害が存在すると分析しました。
なお、センゲが言及する「学習」は、組織が多くの課題に適切に対処する能力を獲得することを指します。
7つの学習障害とは:職務イコール自分
多くの場合、私たちは「自分の責任は自身の職務範囲に限られている」と考えがちです。この思考から、すべての職務や行動が連携して生まれる結果に対する責任感が薄れ、不本意な結果が生じた際には、単に「誰かがミスをした」という考えに陥りがちです。このような考え方は、本質的な原因の特定を難しくし、問題の根本を理解しにくくします。
7つの学習障害とは:敵は向こうに
「敵は向こうに」は、センゲが提唱した学習障害の一つです。これは、組織や従業員が問題や課題を外部要因や他人に原因を求める傾向を指摘しています。
具体的には、組織や個人の内部問題や課題に対処する代わりに、外部要因や他人を非難したり、責任を転嫁したりすることがあります。この学習障害が存在すると、問題解決の過程で本質的な原因を見落とし、問題を他人や外部環境のせいにする傾向が強まります。
センゲは、「敵は向こうに」学習障害を克服するために、組織や個人が内部の課題や問題にもっと焦点を当て、自己評価と自己認識を高める必要があると主張しています。このようなアプローチを通じて、組織や個人は持続的な学習と成長を実現できるとされています。
7つの学習障害とは:積極策という幻想
組織や個人が困難な問題に直面した際、問題を「向こうの敵」や外部要因に帰因し、攻撃的な姿勢をとることで問題を解決しようとする傾向を指摘しています。これは、問題に対して単なる攻撃的な姿勢をとるだけでなく、正確な状況判断や原因分析を怠り、問題の本質を見逃す可能性があることを示唆しています。
具体的には、問題を外部要因や他者の行動に帰因し、その問題の原因を自己の行動や選択肢から排除しようとすることが、「積極策という幻想」学習障害の特徴です。このアプローチは問題解決には効果的ではなく、問題の原因を見過ごす可能性が高く、持続的な学習と成長を妨げることがあります。
7つの学習障害とは:個々の出来事にとらわれる
組織内の会話や議論が主に短期的な出来事や日々の業績に焦点を当て、長期的目標や戦略的な学びが疎かにされる傾向を指摘しています。この学習障害は、組織が日常の問題や出来事にとらわれ、長期的な目標や戦略的な視点を見失う可能性があることを示唆しています。
具体的には、組織内での会話が主に先月の売上高、予算の削減、競合他社の新製品などの出来事に集中し、長期の展望や戦略的課題への議論が不足している場合、この学習障害が存在すると言えます。
センゲは、「個々の出来事にとらわれる」学習障害を克服するために、長期的な視点を持ち、戦略的な議論を奨励し、日常的な出来事だけでなく、長期的な目標や学びにも焦点を当てる必要があると提唱しています。
7つの学習障害とは:ゆでられたカエルの寓話
「ゆでられたカエル」の寓話に触れてみましょう。カエルは、水温のゆっくりとした上昇を感じ取れず、最終的にはこの状況から逃れることなく命を絶たれてしまう、という話です。
これは変化に対する認識難易度を象徴しています。
学習障害も同じように、気付くのが難しいものです。日々の仕事や学業に影響を及ぼす微細な症状がそもそも見落とされる傾向にあるからです。全世界の研究結果によれば、学習障害を持つ大多数の子供たちは、その存在が十分に認知・支援されていない事実が明らかとなっています。
「ゆでられたカエル」のようにならないためには、学習障害の存在を認識し、理解し、適切に対応することが求められます。
これは「個々の出来事にとらわれる」という学習障害と同じく、徐々に進行する過程が最大の危険性を秘めています。「カエルの運命をたどることなく、ゆっくりとした変化に目を向け、対応する能力を身につける」ことが重要です。
7つの学習障害とは:体験から学ぶという錯覚
「体験から学ぶという錯覚(The Myth of the Learning from Experience)」は、センゲが提唱した学習障害の一つで、重要な決定や課題に取り組む際、経験や過去の体験だけに頼ることの限界を指摘しています。
この学習障害は、我々が直接の経験を通じてのみ学ぶことができるという錯覚に関連しています。
一般的に、多くの重要な決定や課題は、我々が直接には経験していないことが多いため、過去の経験だけに頼ることが難しいことを示唆しています。この学習障害から派生するのは、過去の経験を過度に重視し、新しい課題や状況に適切に対処できない可能性です。
センゲは、「体験から学ぶという錯覚」学習障害を克服するために、新しい課題や状況に対しては過去の経験だけでなく、他者の知識や視点、専門家の意見なども活用し、総合的なアプローチを取る必要があると主張しました。
経験に限らず、多様な情報源から学び、より効果的な判断と行動を実現できるとされています。
7つの学習障害とは:経営チームの神話
企業の多くは「社内の既存の考え方を擁護する人材を評価する」という風潮があり、その結果、「集団での批判的な検討」が行われず、「熟練した無能」に陥る経営者が増えてしまうという危険性が指摘されています。
この悪習を打破し、全ての経営者が自身の学習障害に真摯に向き合い、その克服に取り組むことこそが、栄光あるビジネス成功への道筋となるのです。
まとめ
「学習する組織」は、組織全体が学び、成長し、進化する組織のことを指します。その実現のための5つのディシプリンをご紹介しました。自己マスタリー、メンタルモデル、共有ビジョン、チームラーニング、そしてシステム思考です。これらを実践することで、組織は持続可能な成功への道筋が見えてきます。
よくある質問
学習組織とは何ですか?
学習する組織が示す意味は、「進化と成長を止めない組織」と一言で説明できます。メンバーの発展を促進し、全体としての革新性を維持するために、自主的に学習を重視します。この組織タイプの特性は、問題の解決策や新たな進行方向を追求し、知識や経験を全体で共有することです。これには、失敗を学習の機会として受け入れ、改善の道を探るという考え方や、互いの違いを理解し尊重する姿勢が含まれます。
学習する組織の特徴は?
学習する組織が持つ主な特性は3つあります。初めに、”共有されたビジョン”が存在します。明確な目指すべき点へ向けて、全員が団結し、個々の学習経験が組織全体の発展に貢献します。次に、”個々の能力の向上”が挙げられます。組織全体の学習が重視される一方、個々のメンバーが自己の能力を向上させることも必要とされています。そして最後に、”チームによる学習”があります。一人ひとりが得た知見を共有し、組織全体に広げていくというプロセスが重要な要素となります。個々のメンバーも成長し、ウェルビーイングを向上させ、個人と組織が共進化を遂げます。
学習する組織のメリットは?
「学習する組織」の大きな特長は、変化のスピードに素早く対応できる能力にあります。それは常に市場環境の変動に即座に反応し、知識を更新し、適合策を考え出すことにより支えられています。 また、この方式はユーザーのスキルを最大限に活用する効果をもたらします。個人の学習が組織全体の実績に繋がるため、全員が自己成長に向けた意欲を持つことで、組織全体のパフォーマンスが向上します。 さらに、一度効果を実証した手法や方法論を共有すれば、それを繰り返し最適化することが可能となり、組織の持続的成長を保証します。
ダブルループ学習とは?
ダブルループ学習、または高次学習は、組織学習の一形態で、従来の枠組みやルールにとらわれず、組織全体を根本から改善し、新しい価値観を創造するプロセスを指します。 ダブルループ学習は、組織が革新的に進化し、変革を達成するために不可欠な要素とされています。
シングルループ学習とダブルループ学習の違いは何ですか?
シングルループ学習:シングルループ学習は、過去の成功体験を基にして、既存のプロセスや手順を繰り返し、効率化や改善を図るアプローチです。この方法では、既存のルールや前提条件を変更せずに、過去の方法を最適化しようとします。
ダブルループ学習:ダブルループ学習は、前提条件自体を疑い、根本的な変革や軌道修正を試みる手法です。組織は、目標を達成するためのプロセスやアプローチを見直し、効率性や生産性を向上させるために、既存の価値観や前提条件に疑問を投げかけます。
システム思考とは?
「システム思考」とは、物事の全体像を捉え、異なる要素や要因の相互関係を理解し、最も効果的な問題解決方法を見つけるためのアプローチです。システム思考のアプローチは、見える問題だけでなく、多くの相互関連する要素や要因を考慮に入れ、問題の根本的な解決に向けた思考方法を指します。システム思考の活用は、複雑な課題や問題に取り組む際に非常に有用であり、全体像を把握し、効果的なアクションを計画する手助けとなります。