事業性評価とは?目的や必要性について解説
あるビジネスが成功するかどうか予想することは難しいものですが、それを評価し予測するための道具が存在します。その一つが「事業性評価」です。しかし、この事業性評価の実際の役割やその必要性について理解することは難しいと感じるかもしれません。データと数字の山を見ても、それらが何を意味するのか、具体的にどのように活用すべきなのか理解するのは簡単なことではありません。
そこで今回は、事業性評価の目的と必要性について誠実に解説します。これにより、あなたのビジネスが成功に向けて進む一助となることを願っています。
事業性評価とは
新しい事業を始める際や、既存の事業を改善または拡大するために、融資を求めることは一般的な手段です。金融機関に提出するための審査資料の中には、事業性評価が含まれます。
具体的には、事業計画の策定、投資の効果予想、リスク分析などをまとめた事業性評価書を提出します。これには、経済性評価や市場性評価、技術性評価といった観点からの分析が含まれます。経済性評価では投資金の回収期間や収益性を、市場性評価では市場の規模や競争状況を、技術性評価では技術の課題や障壁を評価します。
この評価基準は一概には定まらない場合もありますが、大框は経営理念や強み・弱み、経営戦略や企業の発展性などに基づきます。そして、この評価は金融機関が融資するにあたり、企業がきちんと事業を行っていけることを証明する重要な書類となります。
また、事業の進展や企業の成功を見極め、方向性を決めるためにも、事業性評価は必須のプロセスです。成功した評価は、最終的には企業の成長と利益増加に繋がるのです。
事業性評価の目的とは
事業性評価とは、事業の経済的効果や社会的影響を分析、評価する行為であり、ビジネスモデルやプロジェクトが効果的かつ持続可能かどうかを判断するキーグローブです。
事業性評価の主な目指すところは、一つはビジネスの成功確率の評価で、具体的な戦略や行動計画が実行される前に将来利益を生み出す可能性の有無を評価します。これは市場の流れや競争環境、顧客のニーズを念頭に置き、企業資源を最適化し、リスクを抑制するための重要なフェーズです。
二つ目の狙いは、既に存在するビジネスのパフォーマンスを評価し、改善策を探すことです。経営者や関係者は、事業性評価を通じてビジネスの弱点や問題を明らかにし、解決策を練るのです。
このような事業性評価は社会的、環境的、経済的成功への鍵となり、多くの産業や組織で利用されています。具体的には、金融機関では、事業性評価をポイント化し、ある特定のポイント以上を得ていた場合のみローンの審査を店長に任せるなど、ローンの審査基準とすることが一般的です。
また、ローン申請時には、通常の申請書に加えて事業性評価を基にした経営発展プランを提出することで、審査基準が増えます。ローンを希望する金融機関で、企業の特性や理念、強みや弱み等を記載した経営ビジョンシートを提出すると、金融機関は事業性評価を審査しフィードバックします。
そしてこのフィードバックを活かして、金融機関と共に将来の経営計画や具体的なフットプリントを検討し、成長戦略行動計画を立案することが可能となります。
事業性評価融資とは
企業への融資は通常、その企業の財政状態や保証、担保があるかないかで、融資の可否が決定されます。これが長らく日本の企業への融資の基本的なスタンスでしたが、2015年以降の変化により事業性評価融資が導入されました。
事業性評価融資とは、企業の事業内容や未来の成長性を重視する融資方式です。これにより融資の審査は単なる事務的な判断から一歩進み、金融機関の担当者が直接、評価や審査を行うことになりました。そして、金融機関の担当者は評価を通じて企業をサポートするという新たな役割をもつようになりました。
事業性評価融資は、新規事業や社会に変化を促すイノベーションを重視する融資方式で、これが企業の持続的な成長や新たなビジネスの発生を後押しします。特に、成長過程にあるスタートアップ等にとっては、これまでの融資方式とは一線を画した有利な融資方法となります。
しかし、企業の成長性や事業内容を評価するためには、金融機関には専門的な知識と判断力が求められるため、リスクも伴います。このため政府は”ローカルベンチマーク”という事業性評価に関する手法を提供して、より適切な判断が行われるよう支援しています。
事業性評価シートとは
事業性評価シートとは、新規事業やプロジェクトの事業性を査定する助けとなる道具です。多くの場合、新規的なプロジェクトは未知の分野であるため、そのリスクを理解するために事業性評価シートが活用されます。
この評価シートには多種多様な項目が含まれています。事業の狙いや目的、市場の環境分析(対象となる顧客、競合する他社等)、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)、展開戦略、財務計画等の項目があります。これらを詳しく書き込むことで、新規事業のリスクと成功の可能性を探る材料になります。
事業性評価シートは、ただ単に書き記したものだけではなく、それを基にした多種多様なシミュレーションや検証、そしてその結果を共有したり、討論したりすることで初めて価値を実現します。さらに、評価シートを作ると事業実施の方向性や戦略、進行管理などの具体的な指標がはっきりとします。
経済産業省のローカルベンチマークとは
経済産業省のローカルベンチマークシートにおいて、経営状態を評価するための非財務面の要素として、以下の4つが挙げられています。
①経営者
- 経営理念・ビジョン
- 経営哲学・考え・方針等
- 経営意欲(※成長志向・現状維持など)
- 後継者の有無
- 後継者の育成状況
- 承継のタイミング・関係
②事業
- 企業及び事業沿革(※ターニングポイントの把握)
- 強み・弱み(技術力・販売力等)
- ITに関する投資
- 活用の状況
- 1時間当たり付加価値(生産性)向上に向けた取り組み
③企業を取り巻く環境・関係者
- 市場動向・規模・シェアの把握
- 競合他社との比較
- 顧客リピート率・新規開拓率
- 主な取引先企業の推移
- 顧客からのフィードバックの有無
- 従業員定着率
- 勤続年数・平均給与
- 取引金融機関数・推移
- メインバンクとの関係
④内部管理体制・組織体制
- 品質管理・情報管理体制
- 事業計画・経営計画の有無
- 従業員との共有状況
- 社内会議の実施状況
- 研究開発・商品開発の体制
- 知的財産権の保有・活用状況
- 人材育成の取り組み状況
- 人材育成の仕組み
事業性評価に向けて準備するべきこととは
事業性評価のために準備しておいた方が良い項目は以下のとおりです。
沿革
事業性評価は、事業の方針や投資案件を見極める上で不可欠な工程です。その一端として、「沿革」の理解がまず重要です。沿革とは、会社の成り立ちや過去の軌跡のことを示します。これは、過去の実績や会社の持続可能性を探るうえで不可欠な要素です。
具体的には、資金繰りの経緯・製品開発の経過・販路拡大や提携所信・企業再編や合併など、記憶に残る出来事を時系列に分けて調査することが必要です。こうした情報は、事業の現在位置を把握するため、そして将来の可能性を見通すために欠かせません。
また、検討すべき沿革の要素には、事業のビジョン、使命、価値観も含まれます。これらは事業の進行方向を示し、それがマーケットニーズや顧客の要望、競争状況とどう調和しているかを理解するのに重要です。
事業性評価の準備は専門的な視点と綿密な調査を伴いますが、事業の深い理解と的確な判断を可能にします。それは創業者の思い次第であり、その思いが会社の特性や戦略を明るみに出せます。
会社の理念(ミッション・ビジョン・バリュー)
金融機関は、当然と言えば当然ながら、その会社が将来どのように成功を重ねていくのかを見極め、それを前提に融資を決定します。だからこそ、経営者として、自社の未来について明確に語ることが求められます。
そのために必要なのが、ミッション・ビジョン・バリューの3つです。ミッションは企業が存在する理由や目的を示し、働く全員が同じ目指すべき目標に向かい、一丸となって動き出すための力となります。ビジョンは企業の将来の展望や目指すべき方向性を示し、組織全体が進むべき道筋を明瞭にします。そして、バリューは企業内部の価値観や行動理念を示し、社員一人一人が日々の行動や判断を行う際の基準となります。
これらを明文化することは、外部――特に投資家へのメッセージとしても機能します。その企業の将来像や、投資に伴うリスクの可視化、ROIの予測といった観点から、貴重な情報となり得ます。また、社内でも見つめ直す機会となり、組織全体の力を増幅させることに寄与します。事業性評価に向け、ミッション・ビジョン・バリューの再確認と、関係者が共感を示す内容へのブラッシュアップを強く推奨します。
後継者の有無・育成計画
企業が事業展開において重視すべきなのが「後継者の確保・育成方針」であり、これは公司存続に向けた長期戦略になりえます。後継者が不在の企業は、社長の退職や急病が発生した際に、突如としてリーダーシップを担う者が不在となるリスクに瀕します。さらに、後継者が育っていても能力や経験が不足していれば、組織運営が行き詰まってしまう危険性があります。
よって、後継者がいるかどうかだけでなく、挙措の計画も欠かせません。事前に育成戦略を立てておくことで、後継者は組織の理想と事業戦略を全うに把握しつつ、自己成長に努めることが可能になります。育成戦略には、研修プログラムの立案や適切な指導の提供、などが含まれます。
事業評価において「後継者の確保・育成方針」は、会社が見舞われる可能性のあるリスクを先回りするための重要なチェックポイントであり、これを怠るわけにはいきません。企業の持続的な発展と向上を確実にするためにも、後継者の指導とリーダーシップの強化に注力することが肝要です。具体的には、社長が引退する5年前にはすでに後継者の候補を見つけ出し、最低でも10年はかけて徹底した指導を行うという流れにすべきです。
利害関係者(サプライチェーン)の整理
どの企業も業務遂行に際し、パートナ企業、サプライヤー、販売先といった外部の関係者との連携が不可欠です。
これらの企業との関係性は健全に保たれているか?
過度に特定の企業に依存していないか?
これらのパートナー選びの理由や基準が何か?
といった事も考えて整理しておくことが肝要と言えるでしょう。
業務フロー
事業性評価を控え、まず注目すべきは業務フローの見直しです。その理由は、業務フローが事業の運営方法を示し、効率を評価する土台となるからです。不確かさや余計な手間、混乱を避けるためにも、業務フローは明確なものであるべきです。
なぜ業務フローの整理が重要なのかと言うと、それは各業務毎に独自の強みやアイデア、工夫が表れるからです。例えば、新規開拓に関して、独特の紹介ルートを持っている企業は人的な関係性が強みであると言えます。顧客から紹介を得ている企業は、高い顧客満足度と強い顧客関係があるということが示されます。また、ウェブによる集客がある企業はウェブマーケティングに強みを持っていると言えるでしょう。
業務フローの準備にあたっては、各工程が明確に目的と役割を示し、効率的に連携しているか評価することが重要です。これにより、余計な手間を省き、事業の達成可能性を高めつつ、流れを保ちながら結果を出せるようになります。
業務フローが逸脱した場合や変更が必要な場合には、迅速なフィードバックと修正が肝心です。これにより事業計画が柔軟に対応でき、成功へと導くことが可能になります。
顧客像
事業性を評価する際、適合度の為に対象となる顧客のイメージを具体的に設定することが重要です。自社の主要な顧客や補助的な顧客から導き出されるニーズをどの程度満たしているか、そしてその成長性はどれほどかを理解することが可能になります。
始める前には、まず顧客の基本的な属性、つまり年齢や性別、収入、地域、家族構成を確認しましょう。次に、欲求やニーズ、ライフスタイル、趣味や価値観といった心理学的な特徴について深く理解する必要があります。
その後、これらの情報に基づいてデータ分析を行い、顧客像(ペルソナ)を明確に定義します。ペルソナの設定により、提供する製品やサービスがその人の問題をどのように解決し、どのように価値を創出するのかが明らかになります。
市場環境
事業を立ち上げる際に欠かせないのが市場環境の評価です。この評価が、事業の成功を大いに左右します。特に、「市場環境」についての見極めは極めて重要な要素となります。なぜなら、市場環境は絶えず変動し、その変化を見極めることが事業の繁栄に直結するからです。ますます、自社の事業が参入する対象市場の規模を把握することが重要です。狭い市場では需要が制限され、広い市場では激しい競争が予想されます。
ターゲットとなる顧客層の好みや購入パターンを理解することも必要不可欠です。ライバル企業の行動を研究し、自社がどのように独自性を打ち出すかを考慮するのも大切です。
知的資産
知的資産とは、知識・アイデア・技術・データ等の抽象的な価値を体現するもので、現代ビジネスの中でその重要性は増しています。
あなたの会社がどのような知的資産を持っているのか把握しましょう。これから進めるビジネスの方針を決定する際に、これまで築き上げてきたスキルや経験、特許や技術、ブランド力などが参考となります。これらは他の企業と差別化を図るためだけではなく、新たなビジネスチャンスを生み出す元となります。
保有する知的資産の防衛も念頭に置きましょう。特許、商標、著作権等の、法的に保護が必要な知的資産をチェックし、適切な手続きを進めましょう。このことが、競争力をサポートするための防衛線を築く一助となります。
成長戦略
市場調査を専心して、事業が創り出す価値や顧客の求めるものを把握する必要があります。さらには、競合とのギャップや市場の成長度も詳細に調査分析します。
次に、明確なビジョンと戦略的な目標を設計します。これらの目標設定には、具体的で測定可能、達成可能、関連性があり、期間を定めたSMART原則が必要です。そして、これらの目標を達成するための資源と戦略のプランを整備します。
最終段階では、リスク分析とポテンシャルな問題の特定に取り組みます。これは、法規制の変化、市場の流れ、テクノロジーの進歩など全てのビジネスリスクを含む予測が必要となります。
これらの事前準備を経て初めて、事業性評価は真の価値を持つものとなります。綿密な準備により、成長戦略という大きな目標は現実味を帯び、企業の成功への一歩を描き出しやすくなります。
これは、例えば、アンゾフのマトリックスを利用して自社のビジネス機会を見つけ出す考え方につながります。
- 既存市場で既存商品を販売
- 既存市場で新商品を導入
- 新市場を開拓して新商品を開発
- 新市場で既存商品を提供
これらの戦略はそれぞれ異なる難易度やアプローチが求められますが、上述の準備と分析によって、各戦略の可能性やリスクを評価し、適切な成長戦略を立てることが可能となります。
事業計画・経営計画の作成・運用
事業やプロジェクトの成功へと導くためには、事業性評価が大切な手続きです。そのために最初に行うべきことは、一体何を目指すのかというビジョンの設定です。具体的な目標とその達成策を経営計画へと具現化することは、そのスタートラインとなります。
さらに、事業計画や経営計画を作り上げ、適用していく際には、市場や競合の調査結果を考慮に入れることで、より公平な評価が可能になります。これらの調査結果は、事業計画の強みと弱みを見つけるSWOT分析やマーケティング戦略の立案にもつながります。
事業計画や経営計画は一度作成したら終わり、ではなく、継続的に見直しや更新を行う必要があります。常に新鮮な視点で事業環境を見ることで、評価の質も向上します。こうした繰り返しのプロセスを円滑に進めるPDCAサイクルの運用体制が求められます。
加えて、事業計画や経営計画の実行状況の管理も必要です。KPIを設けて定期的に達成度を確認することで、計画達成の進行状況の把握と必要な対策が可能となります。
財務指標
事業性評価においては、企業の将来性や成長可能性の審査が主流ではありますが、それと並行して、企業の経済状況も無視することはできません。財務指標が、その評価を行う上で重要な手がかりとなります。この財務指標は、企業活動の数字化とも言うべきもので、企業の安定性や収益性を明確に示します。
我々が用いるべき財務指標は大別して3つ。1つ目は「収益指標」であり、売り上げや純収益等、企業がどれほど利益を出せているかを示します。2つ目は「財務健全性指標」であり、自己資本比率や流動比率等、倒産リスクにどれほど耐え得るかを示す指標です。最後の3つ目は「効率性指標」であり、総資産回転率や売上高利益率等、資産をどれだけ効率よく動かしているかを示す指標です。
まとめ
事業性評価は、ビジネスの成長性や持続可能性を測る手段です。その目的は、ビジネスの成功性を評価し、将来的な問題を予測することであり、ごく具体的な戦略立案や投資判断にも大いに役立つツールです。
事業性評価の理解は、ビジネス運営の成功にとって必要不可欠な要素であり、あなたのビジネスが次のステージへと進むための重要な一歩となるでしょう。