デジタルと人間性が融合する時代へ【前編】 「“はたらく”に歓びを」掲げるリコーの新たな挑戦 株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
◆株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
事業開発室 UX開発グループ エキスパート 中川 淳(写真左端)
2005年リコー入社。研究開発部門にて光MEMSや車載ディスプレイの研究開発に従事。その後2020年よりはたらく人の価値創造を支援するHuman Digital Twin at Workの事業開発に従事。
◆株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター
事業開発室 システム開発グループ エキスパート 鈴木 友規(写真左から2番目)
2014年リコー入社。拡張現実(xR)技術を用いた車載ディスプレイの研究開発を経て、2020年より、はたらく人の価値創造を支援するHuman Digital Twin at Work関連領域のシステム開発に従事。
近年、耳にする機会が増えた「人的資本経営」という言葉。企業の持続的な成長のために人材をコストではなく資本と捉える考え方だ。
まだまだ苦戦している企業が多いように思う。真っ向から立ち向かうのがリコーだ。
OA機器に始まり、お客様の“はたらく”に寄り添ってきたリコーは2036年のビジョンとして「“はたらく”に歓びを」を掲げた。
それを技術で支えるのが先端技術研究所のHDT研究センターである。
今回はHDT研究センターの実態と画期的なサービスについて前編/後編2度にわたってお送りする。
Human Digital Twin at Work構想とは
『コンセプトはヒューマンデジタルツインを仕事の現場に応用するということです。』
そう語るのはHDT研究センターの中川氏だ。
中川氏によると、Cyber-Physical-Human Systems(CPHS)と呼ばれるヒトとシステム間の相互作用を研究する分野が存在しているが、その中でも特にヒトに関するデータを仕事の現場に活用する風潮は弱いことに着目し、2021年にHDT研究センターが発足された。
『我々は未来の社会像からバックキャストして研究テーマを設定しています。働く人をデジタル化してそのデータを利活用することで、働く人の能力発揮や働きがいにつなげることを考えています。』
Human Digital Twin at Workのコンセプトは、人の感情や行動などのデータを解析して、その人がどういう状態にあるのかを可視化して、上手にパフォーマンスを出せる方法を提示することを働く現場に応用することで、働く人が「創造的な仕事をする」ためのサポートを行うことに役立てるということにある。
最終的には、働く人それぞれが感謝・貢献を実感でき、「働くことが楽しい」社会の実現を目指していくという壮大なミッションに取り組んでいるのだ。
サービス開発は地道なことも厭わない
どのようなやり方でサービス開発につなげているのだろうか。
『リコーがこれまで培ってきたセンシングやイメージング、そしてAIの技術の活用を意識しつつも、ニーズはどこにあるのかを捉えるため、まずは社内の困り事の解決から図りました。』
これまでシーズベースで新たな技術を利用してサービス提供をいくつも行ってきて上手くいなかった事例が多々あるということを見つめ直し、徹底的にお客様の困り事はどこかという指向性で研究開発を行っているという。
『強みの技術を活かすということも重要なのですが、リーンスタートアップの手法で、お客様の困り事を的確に捉えるための検証を重ねています。お客様の困り事に対する理解を深めるために、お客様の属性を変えてみるなど、検証を進めていく中で必要に応じてピボットしていくことで、お客様と困り事を特定していきました。』
競合分析を行い、リコーならではの視点を入れながらサービス開発を行うことと、自社だけで活動するのではなく、オープンイノベーションという形で他社と連携することも模索してきた。
HDT研究センターは研究開発部門でありながら、展示会出展やウェビナー開催など、顧客の生の声を聴くことも欠かさず行い、地道な営業活動も行っているという。
また、HDT研究センターでは多数のソリューションを企画しそれぞれチームを結成して活動しており、その中でも現在トライアルサービスにいたっている代表例が「1on1の対話トレーニングシステム」(以下、1on1トレーニング)と「朝礼診断ソリューション」(以下、朝礼診断)だ。
自社研修課題から生まれた質の高い1on1トレーニング
『これまで座学だけでは身に付きにくかった1on1のやり方をどうやったら効果的に習得しやすくなるのかという人事課題から着想に至りました。』
リコージャパンの人事部門とディスカッションしていると、マネージャー層に向けて1on1研修を行っているが、座学・講義が中心となっており、どれだけ実際の現場に役に立っているか分からずなんとかしたいという課題を聞き、実際に現場のマネージャー層も部下とのコミュニケーションの取り方に悩んでいる方が多いことが分かった。
そんなことからAIを活用したロールプレイングでいつでも手軽に1on1トレーニングできることが特徴だ。今はまだAI部下は数パターンしかないが、それでも汎用的なスキルが身につくよう設計されている。
1on1トレーニングで肝となるのは対話相手と解析方法についてだが、どのようにクリアしているのだろうか。
『対話相手は、オープンイノベーションとして他社と共同開発で実現し、解析方法はリコーが長年培ってきた画像解析技術と言語解析技術を応用し短期間で構築しました。』
そう答えるのは1on1トレーニングでシステム開発技術を担う鈴木氏だ。
1on1で投げかけた言葉により柔軟に反応が変わり会話がスムーズに成り立たせる技術を0からリコーで開発するとサービスの提供までに長期の開発期間が必要になってしまう。
そこで、株式会社シルバコンパスの映像対話技術を活用し、共同開発で1on1向けの対話相手を構築した。オープンイノベーションとして他社の技術も組み合わせることで、実際に目の前にいるような即時レスポンスを実現し、自然な対話を可能としたのである。
『解析方法で特に注意したのは、対話スキルの向上をどのように分かりやすく提示するかということです。利用者に提供するフィードバックレポートでは、発言内容や振る舞いを解析し点数化することで利用者自身が自分のスキルの客観視を可能にすると共に、悩みを抱えている相手との1on1において、発言や振る舞いをどのように改善すべきかという道筋も示しています。』
また、上司役である利用者のうなずきや笑顔など非言語の振る舞いについては、画像解析技術を活用し、マスクを付けた利用者であっても正確に検出できるようAIを開発し、1on1の対話の中で重要な傾聴・承認・質問に関わる言語情報についても、言語解析技術により検出可能とした。
これらの結果として上司による部下へのコミュニケーションの関わり方がどの程度できているかを精度高く分析できるようになった。
将来的に付加していきたい要素は何かあるのだろうか。
『継続的に利用して効果を感じていただくようRPG的なゲーム要素も入れていきたいですね。』
ただでさえ1on1含めてプレイングマネージャーの要素が増したマネージャー層は忙しくなってきている。その中で自分の時間をさらに使っていただくためには楽しい要素も入れていきたいという考えである。
まさに1on1は内省しながら上司の傾聴力、質問力、提案力を高めることで効果が上がり、それには継続力が欠かせない。継続をさせるためにはどうしたらよいかまで考えているリコーの姿勢には本気を見て取ることができるだろう。
後編では朝礼診断という次世代のコミュニケーションツールになりうるサービスインタビューをメインにリコーの新たな挑戦に迫る。
住所:神奈川県海老名市泉2-7-1
URL:https://jp.ricoh.com/
1on1の対話トレーニングシステム:https://jp.ricoh.com/technology/tech/127_one-on-one_meeting_training_system