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DX人材育成とは?方法や成功のポイントを解説

デジタル変革(DX)が急速に進む現代社会。企業が競争優位を保つためには、この変化に対応できる人材、いわゆる”DX人材”の育成が不可欠です。

しかし、DX人材とは具体的に何を指し、どのようにして育成すればよいのでしょうか?さらに、その育成を成功させるポイントは何なのでしょうか?

DX人材育成の意義を理解し、着実なステップを踏みながら、成功へと導くための方策を探求していきましょう。

DX人材育成とは

DX人材育成とは、デジタルトランスフォーメーションを推進するために不可欠な人材を養成する活動を示します。社会のデジタル化が加速し、新たなビジネス機会が創出される現代において、DX人材は企業の成長の主導者となります。

DX人材育成の主要な柱は、IT技術だけに留まらず、事業戦略やプロジェクトマネージメント、コラボレーションにおけるスキルの強化にも焦点を当てています。これらを修得した人材は、ビジネスのデジタル変換を進め、企業の競争優位性を高めます。

さらに、DX人材育成は従業員のキャリアパスの広がりとその定着力にも寄与します。DXの持つ多彩なスキルが新たな職業展望を描き、働き甲斐や向上心の増進につながるのです。

以上を見ても明らかなように、DX人材育成は結果的に業績改善だけでなく、従業員の満足度向上にも貢献します。これは、企業の継続的な発展を対外的・対内的両面から支援する重要な手段と言えるでしょう。

具体的な育成手法としては、あらかじめ目指すDX人材のタイプを定め、そこに応じたトレーニングプログラムを設計します。社内で訓練のためのカリキュラムを構築して学びを深める方法も、外部の育成プログラムを採用する方法もあります。

自社の教育体制に自信がない場合や、より専門的な知識やスキルを必要とする場面では、DX人材育成の専門家に対してサポートを依頼することがお勧めです。自社のニーズに適したアドバイスや提案が得られ、育成の課題に適切に対応することが可能となります。

DX人材を育成するメリットとは

DX人材を幾瀬ウするメリットについて詳しく解説します。

最適なDXが進められる

DX人材育成のメリットとして挙げられるのは、自社に最適なDXを推進できる点です。異なるビジネス課題や目標への対応を可能にする独特のDX戦略を自社で築き上げるためには、DX人材が欠かせません。DX人材は最新技術のトレンドを理解し、それを具体的な解決策へと変える能力を持っています。当社の特徴や強み、弱みを熟知したDX人材によって、ビジネスに適したデジタル戦略の展開が可能となります。

加えて、自社でDX人材を育成すれば、業界に精通し、技術的な知識も兼ね備えた人材を確立することができます。これにより、組織全体のデジタル化が進むことで、企業価値をさらに高めることが可能です。

DX推進に適した社内体制の構築

自社でDX人材を育成することにより、一部の部署だけではなく全社員のデジタル知識が深まります。これによって、新しい戦略の立案や迅速な意思決定につながるでしょう。また、DX人材の育成は、トライ&エラーの重視やリスク取りへの意識改革を促進し、企業風土の変革を進めます。

次に、DX推進は部署間の垣根を越えたプロジェクトです。これには全社的な変革が求められます。そこでDX人材の育成が力を発揮します。それは、各部署の業務内容や必要な機能を理解し、それぞれの部門と効率的に連携を取る能力を持った人材が中心となってDX推進を進めるためです。

積極的にDX人材を育成する企業は、外部から見ても魅力的な組織像を描きます。これは、企業が自己革新に努めている証でもあり、求職者を引きつける要素となります。

DX人材に求められるスキルとは

これまでの数年間で、DXが企業の経営戦略の核心を形成しており、DX人材の需要と供給においては大きなギャップが見られます。テクノロジーをビジネス戦略と結びつけ、企業の革新を牽引する役割を果たすDX人材には、主に三つのスキルが必要とされます。

まず第一に、ITスキルが挙げられます。AI、IoT、大量データ、クラウドなどの最新技術を把握し、それをビジネスに適用する能力が求められます。

次に、マネジメントスキルも必要となります。デジタル化による組織の変革を推進し、新しいビジネスモデルを開発できるようにリードする力が不可欠です。

第三に、新たな価値体系や考え方への対応力、つまりパラダイムシフトの意識も求められます。物事の本質を見抜き、変化の波を先読みする視点と、新たな道を模索する力が重要となります。これらのスキルがあるDX人材は、先端技術を駆使して企業をリードするための必要不可欠な存在となっています。

独立行政法人情報処理推進機構「デジタルスキル標準ver.1.1」によれば、DXに関与する人材に求められるスキルにはビジネス変革スキル、データ利用スキル、テクノロジースキル、セキュリティスキル、パーソナルスキルなどがあります。

DX人材育成にあたっては、最新のデジタルスキルやデータ利用スキルだけでなく、ビジネス戦略を策定し、ビジネスモデルを設計するためのスキルも必要です。さらに、リーダーシップや問題解決スキルなどのプロジェクト推進力も求められます。

企業がDX人材を育成する際の学習内容は、企業の戦略やニーズに応じて選んだ項目を育成プログラムに反映することが効果的です。そして、DX化に必要な人材を事前に正確に把握しておくことで、最適な育成プログラムの計画と効率的な人材育成が可能になります。

DX人材育成の方法とは

DX人材の育成方法について、それぞれのステップを解説します。

①目的設定

DX人材育成の道のりは、「目的設定」から始まります。DXの進行時において、企業はそれぞれ異なる目指すべきDXの形態を持っています。その独自のDXを実現させるためには、到達点を明確化するための最初の大切な取り組みに目標設定が必要となります。

DX人材育成への前向きな方法論として、具体的には新たな事業を創出するか、既存の業務プロセスをデジタル化するか等の具体的な施策が挙げられます。そしてそれらが、人材開発の足場となります。

例えば、新しいビジネス領域として無人決済システムを取り入れた無人ストアを展開する場合、AI技術やビッグデータの取り扱い方に熟知した人材や、新たな顧客体験の提供に精通した人材が必須となります。

それに対し、業務の自動化を実現するRPA(Robotic Process Automation)を導入する場合、業務フローの改善を追求するプログラマーや他部署との円滑なコミュニケーションが求められます。

DX方向性の策定に困ったときは、業界に精通した専門家やアドバイザーの力を借りることで、経営層との働きかけを通じてDX戦略を整備することも求められます。

②求める人材の設定

次に、DX人材の具体的な要件を定義します。先に設定したDXの目指す方向性を基に、どの種類のスキルや能力を持った人材が、我々のDX戦略推進にとって必要かを精査します。

経済産業省が公開した「DX推進スキル標準(DSS-P)」によれば、DXの取り組みに適した人材としては、主に5種類のカテゴリーが存在し、それぞれの人材が持つスキルによって、要求される役割が果たせる形で、DX推進が行えます。

DX人材の育成において大切なのは、求められるスキルを理解し、自社の育成の方向性に矛盾がないかを再評価することです。自社のDX推進に適合する人材の肖像やスキルが定義されていなければ、必要なスキルを有していながら活用できない状態となり、逆効果となってしまうこともあります。

技術的なスキルとしてはエンジニアリングやデータサイエンス、ビジネス系スキルとしては組織運営やプロジェクト管理能力、そしてスキル以外の素養としては高度なコミュニケーション能力や状況に柔軟に対応する能力、精神力などが重要であることが、分類して考えることで明確になります。

③人材のキャリアパス設計

DX人材のキャリアパスを設計する際、各人の目標や未来像をはっきりさせることが必要となります。それから、明確になったそれぞれの進路に照らして必要なスキルセットや経験を得るべき分野が見つかります。

例えば、プログラミングの専門家であれば、最新のコーディング言語の習得やセキュリティ対策の知識など、必要なスキルは日々更新されています。それらのスキルを絶えず学び続けることで、未来のDXに対応可能な人材を育てることが可能になります。

新たに、キャリアパスの策定では、職種や職位だけでなく、スキルや能力に基づいて決定することも大切です。技術的なスキルだけでなく、事業の理解や課題解決能力などのソフトスキルも考慮に入れ、各人の能力に合わせたキャリアパスを提案します。これにより、社員のやる気が上がりスキルの向上が見込まれ、組織全体のDX推進力も増強されます。

④育成対象者の選出

次に育成対象者の選出について述べます。選出する際の第一のステップとして、企業全体のデジタル変革における理解度を把握し、社員のスキルレベルや課題を洗い出します。次に、企業の将来像に寄与するために何が必要なのか、どのタイプの人材を必要としているのかを明らかにします。

重要なことは、企業にとって必要な専門的なデジタルスキルを持つ社員だけでなく、社内の各部署から幅広く候補者を探すことです。全社を巻き込んでデジタル変革を進めるため、リーダーやスペシャリストなどの役割を持つ、育成が可能な社員を積極的に選出します。

選出する人材は、技術力だけでなく、自己成長への熱意や向上心も兼ね備えていることが重要です。知識や技術は習得することができますが、学ぶ意欲を持たなければ、育成のプロセスは進みません。そのため、適性と意欲を併せ持つ人材への投資は、全体のデジタル変革を成功させるための必須の要素となります。

⑤育成計画の立案・実行

育成計画立案時には、まず何を求めるのかを定義する必要があります。それは、新しいテクノロジーに対応できる力だけでなく、チームをまとめ、新たなビジネスモデルを作り出す力などを包括した全体像です。

育成計画は主に3つのステップで進行します。第1に、専門的な知識を習得する座学、第2に、経験積み重ねのためのOJT、第3としてメンター制度によるサポート体制の充実です。

座学では、デジタルスキルやDXに関する専門知識などを学びます。これにより、チームでDXを推進する際に必要なチームマネージメントやリーダーシップの習得、変革を恐れないマインドセットの作り方なども同時に学べます。

育成計画はただ立案するだけでなく、その施行と結果の評価・フィードバックが重要になります。計画がうまく実行できていない場合や、目指していた結果が得られない場合は、見直しを行い、適時調整も加えます。

以上のような一連のプロセスを通じて、DX人材を育成していくことが、企業の未来をリードするためならびに、DXを成功させるためには大切となります。

OJT

OJTは、実務経験を通じた人材育成の手段です。座学で得た知識やマインドセットをOJTで実践し、それを通じて定着させ、実践力を身につけていくプロセスです。

社内外でのネットワーク構築

社内だけでなく、社外とのネットワークを構築することも非常に重要です。IT関連の知識や技術は急速に変化しているため、絶え間なく最新情報を取り入れることが不可欠です。常に最新の知識や技術を確認し、継続的な学習を心掛ける必要があります。

⑥育成後のアクションプラン設定

DX人材育成が完了した後のステップは、アクションプランの設定になります。これにより、新たに育成したDX人材の能力を最大限に活用する戦略を策定します。

まず、育成後の目標を明示し、企業価値を高めるためにはDX人材の能力をどのように活用すべきかを規定します。

人材育成を指導する上司とDX担当者が協力して、これらの目標を達成するためのロードマップとアクションプランを確立します。各実施項目を一つ一つのタスクに分け、それぞれがどのタスクに当たるのかを決定します。これにより、DX業務の管理と推進が円滑になります。

加えて、周期的な評価とフィードバックのセッションを設けることで、新たな技術やトレンドへの対応を柔軟に行います。日常の評価により、サイクリックに人材のスキルを更新し、要求に対応して研修を提供します。

DX人材の個々のエキスパート領域を理解することで、それぞれの専門性を最大限活用するチーム編成やプロジェクト割り当てを検討します。各人材が自分のスキルを最適に発揮する環境を作り上げることで、全体としての成果を向上させます。

最後に、持続的な成長のためには、教育の機会を継続的に提供することが重要です。育成後も自己啓発の意識を持ち続け、新しい知識や技能を絶えず学ぼうとする意識を持たせることで、組織全体のDX推進が可能になります。この全体を通じて、PDCAサイクルを取り入れてアクションプランの策定と改善を行います。

DX人材育成を成功させるポイントとは

DX人材の育成を行っている企業でも、知識だけを学ぶ研修が主流であり、具体的な成果に繋がっていない実態が見受けられます。

企業ごとにDX推進のために必要なスキルや知識が異なるため、DXに対する独自のアプローチや考え方を学ぶことが重要です。DX人材育成を成功させるためのポイントをいくつかご紹介します。

アジャイル開発手法の取り入れ

DX達成のためには、デジタル分野の高度なスキルが必要不可欠ですが、その中でもアジャイル開発という手法の理解と活用は掘り下げなければならない領域です。

アジャイル開発は、先進的な技術だけに留まらず、チームでの協業、コミュニケーション能力、素早い意志決定を重視する方法で、これらの技術を修得することで、DX推進力が飛躍的に向上します。

アジャイル開発の技術の修得には、現場主義的な研修やOJTを活用し、具体的なプロジェクトに即した知識や能力を身につけることが有益です。また、持続可能な成長を実現するためには、エンジニア同士で知識を分かち合い、新しい学びを創出するコミュニティを形成することも大切です。

DX人材の育成は、企業にとってはコンスタントな成長を確保するための土台となります。そのため、アジャイル開発手法の導入と同時に、そのスキルを鍛える教育機構を固めることが重要となります。こうすることで、企業は常に最先端のデジタル技術を追求し、革新を生む組織を築くことが可能になるでしょう。

DX人材のスキルアップと育成には、大量のプロジェクトではなく、アジャイル開発手法を用いた小規模なプロジェクトから取り組むことが効率的です。

アジャイル開発とは、プロジェクトを細かなパートに分割し、それぞれを独立して開発し、テストを行う開発方式です。大規模なプロジェクトに比べて、小規模なプロジェクトでは、完成までの期間が短く、難易度も下がるため、まだ未熟なDX人材でも扱いやすく、成功体験も得やすいというメリットがあります。

育成過程の可視化・共有

DX人材の養成はビジネスの成長を支える主要な戦略です。その重要な要点となるのが、育成過程の「共有・可視化」です。

育成過程の可視化は、DX人材開発の進行具合を明白に理解し、求められるスキルや知識の習得状況をチェックすることを可能にします。透明な評価基準と一貫性のあるフィードバックにより、表面的な教育を避け、本当のパフォーマンス向上を後押しすることができます。

また、この育成過程を共有することで、部署間の学びの交換やチーム内での理解が深まり、組織全体のDXスキルが向上します。共同の目標意識も促進され、良好な職場環境を形成します。

育成過程の共有・可視化は、DX人材の成功を実現するための不可欠な要素であり、高度なエンゲージメントと生産性の向上につながります。この点を強調し、积極的な意識改革と組み合わせて、企業のDX推進をさらに促進します。全社が一体となり、公開・共有の精神を持つことが重要です。失敗に対する寛容さや他部署からのサポートも容易になり、成功した体験を共有する文化が生まれます。

これにより全社的なモチベーションが一段と向上し、新たな革新につながるでしょう。育成は閉鎖的な状況で行うべきではなく、全社を巻き込んで取り組むことが肝心です。

単なる研修で終わらせない

研修は唯のスキルトレーニング以上の価値を持つべきです。それはDXの根幹を理解するための教養を伝え、その知識を生かす洞察力を育むプラットフォームとなっているべきです。

このラーニング&デベロップメントの手法は、研修だけではなく実際の業務へも適用させることでより効果を発揮します。

DX人材の育成には、自己のスキルアップに意欲的な環境の提供が必要です。企業としては個々に自習を奨励し、他者との共同による学習をサポートすることが重要。それによって新規の価値を生み出したり、自身の成長を実現するための機会を提供することが、自発的な学習習慣を形成するきっかけとなります。

受け身の研修から一歩を踏み出し、能動的な学習と実践を奨励し、単なる手段を超えた本質を追求するこれらの取り組みを通じて、DXの時代に適応できる優秀な人材は確実に育ちます。

スモールステップ

DX人材の養成において、大規模な目標をすぐに掲げるのではなく、「スモールステップ」の採用が急務です。

具体的には、RPAを使ってエクセルの確認作業を行う、SNSツールを用いてプロジェクトの宣伝活動を行うといった、狭範囲でのDXプロジェクトの取り組みから開始するのが良策です。

このような小規模なDXプロジェクトによる成功体験の積み重ねは、実施者だけでなく、経営層やDX研修未経験の社員と一緒に共有を行うことが可能です。共有された成功例は、企業内のDX理解度や興味を引き上げ、DX推進の組織体制の強化を促すことができます。

小さなDXプロジェクトは、期間が短く難易度が低いため、成功に結びつきやすい面があります。そして、もし失敗しても大きなダメージを生むことは少なく、学んだ経験を次なる改良策に活かすことが可能です。大きな成果は、実は小さな一歩から始まるのです。

支援体制を設ける

DXの時代を戦うためには、従業員一人ひとりがただICT技術を習得するだけでなく、それを実践的に活用し変革を推進できる力が必要です。そのためには、自社のIT体制だけでなく、人材開発体制を見直すことが求められています。

企業でDXを推進する際、多くの場合、その重責は元々ITに詳しい人材や新人に任される傾向にあります。しかし、彼らだけが前線で戦っていては、社内全体としての変革のスピードはなかなか上がりません。

そこで我々が提唱するのは、社員全員がDX化に取り組む体制作りです。戦略的なスキルマップを作成し、全員が必要な研修を受け、新たな知識を学んでいくことを奨励します。これにより、社員全員が積極的に最新のデジタル技術に出会い、それを生かすことが可能となります。

そして、組織全体でデジタル化を推進するための体制を整えることも重要です。各部門が協力してデータ分析や新技術の活用を進め、デジタル化の早期適応を目指します。このように、支援体制は社内全体で作り上げるものであり、トップダウンだけではなく、ボトムアップの活動も大切です。

更に、教育はそれぞれの課題やニーズに応じて行うことで、具体性が増し、より実践的なスキルを身につけられます。このような取り組みを通じて、企業は持続可能なDX人材育成のための支援体制を確立することができます。そして結果として、その力をビジネス成長に繋げていくことができるのです。

他の手段との組み合わせ

DX人材の育成において重要とされるポイントは、単独の手法だけでなく、「その他の手法との結合」による影響力です。

DX人材の育成とは、ITスキルだけでなく、新しいビジネスモデルや価値観を習得し、その知識を組織内に普及させることです。この「その他の手法との結合」の重要性は、ここから生まれます。人材育成プログラムに、新たな視角や知識を得るためのプロジェクト参加や、異業種の経営者との意見交換を取り入れることで、革新的な考え方が培われます。

また、特に重要なのは、DX人材育成とは、一角のスキルを獲得するだけでなく、その知識をチーム全体で共有し理解することです。これを可能にするためには、コミュニケーションツールの活用、オンラインコラボレーションツールを用いた共同作業、異なる経歴を持つメンバーとの積極的な意見交換などが効果的です。

DX人材を確保するには、育成だけでなく、新規採用や外部人材の活用といった別の手段も併せて考えることが重要です。特に、情報処理推進機構の調査によれば、デジタルビジネス推進企業では、リーダーとなる人材は主に内部保有傾向にありますが、UI/UXデザイナーやエンジニアなどは、内部人材育成だけでなく、外部からの補充も積極的に行っていることが明らかになりました。このように、各状況や必要な人材に応じた適切な解決策の検討が重要であると言えるでしょう。

適性を見極める

個々のメンバーが持つスキルや才能を最大限生かすためには、それぞれの適性を見極めることが不可欠です。全ての人員が同じスキルを持つ必要はありません。DXにおける要点は、プログラミングの能力だけでなく、視覚デザインやビジネスモデル作りなど、異なる視点やスキルを組み合わせて用いる能力が求められます。

適性を正確に見極めることにより、各メンバーは自身の長所を理解し、自己効力感を感じることによって、全体の生産性を向上させることが可能です。なぜなら、自分自身の評価が高い人ほど、成功への自信を持ち、新しい挑戦に積極的になるからです。

DX人材育成の成功には、新規技術の導入やシステム改良も大切ですが、それ以上に人材に重きを置くことが求められています。それぞれの適性を見極め、最適な位置に配置することで、DX人材育成を成功に導くことができます。

このために独立行政法人情報処理推進機構では、DX人材に必要な資質を6つの因子として仮説立てしています。それは、創造力、柔軟性、他者との協働力、失敗からの学び、モチベーションとリーダーシップ、そして越境学習のスキルです。これらを持つ人材を育成することで、DXの成功へとつなげることが可能です。

DX人材育成の課題とは

DX人材の育成に関する課題とは何でしょうか。具体的に見ていきます。

方針が定まらない

「DX人材育成の方針が定まらない」という声が聞かれることがあり、資質やスキル、教育の内容や方法をどう組み立てるか、つまり「方針」が定まらないという状況です。

その原因として、テクノロジーの急速な進化とそれについていける教育システムの不在、そして求められる人材の形象が曖昧であるという問題が挙げられます。企業内での理解や認識の不一致から、人材育成の策略や具体的なプロジェクトがまとまらず、「方針が定まらない」という課題が発生します。

こうした中、企業は将来のビジネスを先導するために、物の見方や思考をデジタルに変革する「デジタルマインドセット」を持つ人材が必要とされています。そして、その要求に応え、早急にDX人材育成の方針を確定し、その教育制度を組織内に構築することが期待されています。

具体的にはどのようにすべきなのでしょうか。まず、企業がDXを進める目的をはっきりさせ、現在の職員がどのようなスキルを持っているのかを評価します。次に、不足している要素を特定し、どのような人材を育成すべきかを決定します。

スキルマップの利用がこの過程を円滑に進めるための有効なツールとなるでしょう。また、自社だけではDXの目的や必要な人材を特定できない場合には、外部のコンサルタントの力を借りるのも一つの解決策となります。

育成方法が不明

DX人材の育成には専門知識と経験が不可欠です。

さらに、急速に発展するDXのスキル要件も日々変わりつつあります。今後必要となるスキルを予測し、それに応じた教育システムを構築することが求められています。

このようなDX人材育成の課題は、従来の教育や研修では対応できないため、企業は教育システムの見直しや新しい育成プログラムの確立に向けた取組みが求められます。その解決策として、企業独自の研修の設計、e-learningの活用、外部コンサルタントやDX推進ソリューションの活用などが考えられます。

自社のノウハウや知識がある場合、自社独自の研修を設計し、社員に教育することもできます。しかし、研修を自社で開発できる企業は限られているため、e-learningや外部の専門家の力を借りるのが有効です。

e-learningでは、DX人材育成に必要なカリキュラムが組まれた教材を使用し、小テストや理解度チェックなども可能です。外部の専門家やDX推進ソリューションを利用すれば、教育プログラムの企画から教育コンテンツの提供までを一手に引き受けてくれます。

DX人材育成の取組みが進まなければ、DX推進そのものが停滞する可能性があるため、具体的な戦略と行動計画が急務です。

実務に生かせない

DX人材を育成したとしても、最大の課題は’実務で活用できない’という点です。

DX人材を育成する目的は、単純に新しいテクノロジーを学ぶだけに止まりません。それらを現場で使う技術と、組織成長に貢献する力が必要だからです。ところが、教育現場ではたびたび、新しい技術やツールに触れただけで終わってしまうケースが目立ちます。

学ぶべきことが何か、そしてどのタイミングとどの方法でそれを使うか。実務で出くわす問題に対処できる能力を身につけなければ、DX人材育成の目指すところは達成できません。私たちは今、理論と現実の隔たりを埋めるべき時代に立っています。

この状況を改善するには、教育機関とビジネス現場が連携し、ビジネスの需要に応じた実用的な教育課程を設定することが求められています。教育現場から企業へ、そしてその反対にもフィードバックを回すことで、ビジネス現場で活躍できる本物のDX人材を作り上げることが可能になるでしょう。

DXのスキルを持つ人材を育成するためには、単に講義形式の教育だけでなく、具体的な実務能力の育成も必要です。座学により基本的な知識やスキルを教えることは当然のことながら、それらだけでは現場で生かすことが難しい場合も多いのです。そのため、OJT(実務教育)のような手法も導入し、座学で得た知識を実際の現場で直接使う機会を提供することが重要だと言えます。

DX人材育成の事例とは

DX人材育成の具体的な事例をご紹介します。

キリンホールディングス

キリンホールディングスは、DXの振興のために独創的なステップを踏んでいます。特に注目されるのが、同社が全社員を対象に導入した「キリンDX道場」という名称のDX人材育成プログラムです。このプログラムは2021年7月に開始され、キリングループの全ての従業員のデジタル能力を向上させることを目指しています。

この独自の育成プロジェクトは、人材育成専門のパートナー企業と共同で開発され、3段階のコース(白帯:初級、黒帯:中級、師範:上級)を提供しています。それぞれのレベルで段階的に必要なデジタルスキルを習得するシステムが整備されており、社員が自分自身の学習進行度を管理することが可能です。

さらに、キリンホールディングスが特に重視する点は、「ビジネスアーキテクト」という職種のDX人材を積極的に育成するという方針です。ビジネスアーキテクトは「事業の問題点を根本から解明し、ICTを最大限に活用した解決策を設計・推進する」役割を果たします。

これらの斬新な取り組みにより、キリンホールディングスは2024年までに1500人のDX人材を育成することを目指しており、一人ひとりの社員がデジタル変革の推進力を持つDX人材となることで、企業全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させる重要な一役を果たしています。

ダイキン工業株式会社

ダイキン工業株式会社では、自社内でDX(AI)人材を育成するための教育システムを構築しています。2017年には、大阪大学などと連携して、企業内大学「ダイキン情報技術大学(DICT)」を設立しました。

DICTでは、全職種の新入社員から選抜された人材を2年間かけて継続的に教育することが特徴です。さらに、管理職や経営幹部向けの講座も整備されています。

修了生は、営業、開発、製造など、さまざまな部署に配置され、現場での実務経験を積みながらスキルアップとキャリアアップを目指します。

DICTでは従業員同士の学びや変革への意識向上も促進されており、今後は自己主導でテーマを企画し、遂行できる高度なDX人材の育成を計画しています。

日清食品ホールディングス

日清食品ホールディングスは、「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」をスローガンに掲げ、DX人材育成に力を入れています。この取り組みは、全社員のデジタルスキル向上を目指す特長があります。

具体的な施策として、プログラミングの高度な知識がなくてもアプリケーション開発が可能な「ローコード開発ツール」の導入を行い、業務改善システムの開発を外部委託から社内での開発に切り替える社内体制を整えています。さらに、事業部門内でアプリケーションを開発し、実際に使用することで、DXの推進にも積極的に寄与しています。

まとめ

デジタル変革を牽引するDX人材育成は、ICTリテラシーの強化、複合的思考力の獲得、新たなビジネスモデルの探求といった要素が必要です。成功のポイントは、組織全体の理解と協力、実践を通じた学習、失敗を許容する風土の醸成にあります。

これらを組織戦略に組み込み、継続的に実施することで、企業はDX時代を生き抜く力を養うことができます。