
プラスチックの耐熱温度完全ガイド|素材別特性と高温環境での選定基準
プラスチックの耐熱温度は、連続使用温度・荷重たわみ温度・熱変形温度という3つの指標で評価されます。汎用プラスチックの60℃から、スーパーエンジニアリングプラスチックの300℃超まで、素材によって耐熱性能は大きく異なります。本記事では、高温環境下での材料選定に必要な温度指標の正確な理解と、用途別の最適素材選定方法を実務視点で詳しく解説します。
目次
プラスチックの耐熱温度とは?温度指標の正確な理解と選定基準
プラスチック素材を選定する際、耐熱温度は最も重要な判断基準の一つです。しかし、カタログに記載された耐熱温度には複数の定義があり、使用環境に応じて適切な指標を選ぶ必要があります。製造業のエンジニアや材料選定責任者は、連続使用温度、荷重たわみ温度、熱変形温度という3つの温度指標を正確に理解し、実使用環境に即した材料選定を行うことが求められます。
プラスチック材料の耐熱性能は、単一の温度値では表現できません。短時間の高温曝露に耐えられる温度と、長期間使用し続けられる連続使用温度は大きく異なります。また、機械的荷重がかかる環境では、荷重たわみ温度が実用上の限界温度となります。プラスチック製品の設計では、これらの温度特性を総合的に評価し、適切な安全係数を設定することが重要です。
耐熱温度の定義と3つの重要指標
プラスチックの耐熱温度には、使用目的に応じた複数の定義が存在します。連続使用温度は長期的な機械的特性を維持できる温度範囲を示し、荷重たわみ温度は荷重下での変形が始まる温度を、熱変形温度は無荷重状態での軟化温度を表します。JIS K 7191-1やISO 75規格では、荷重たわみ温度を0.45MPaまたは1.82MPaの荷重条件下で測定し、試験片が規定量たわんだ時の温度として定義しています。一方、連続使用温度はUL746B規格などに基づき、長期熱老化試験により機械的強度や電気的特性の保持率から算出されます。実使用環境では、これらの温度指標と実際の使用温度との関係性を理解し、適切な材料選定を行う必要があります。
荷重たわみ温度と熱変形温度の実務での活用法
荷重たわみ温度は、プラスチック部品が機械的荷重を受ける用途において重要な指標となります。0.45MPa荷重条件での測定値は一般的な構造部品の評価に使用され、1.82MPa荷重条件での測定値は高い機械的強度が求められる用途での判断基準となります。たとえば、自動車部品や産業機械部品では、使用温度下での寸法安定性と機械的特性の維持が不可欠です。荷重たわみ温度が使用温度を十分に上回っていることが、長期信頼性を確保する条件となります。熱変形温度は無荷重状態での軟化特性を示すため、構造材としての使用限界温度の目安となります。実務では、連続使用温度と荷重たわみ温度の両方を確認し、使用環境に応じた適切な温度マージンを設定することが推奨されます。
連続使用温度とUL規格の温度インデックス
連続使用温度は、プラスチック素材が長期間にわたって機械的特性や電気的特性を維持できる温度の上限を示します。UL746B規格に基づく温度インデックス(RTI:Relative Temperature Index)は、20,000時間から100,000時間の長期熱老化試験により評価され、機械的特性、電気的特性、外観変化などの項目ごとに設定されます。使用環境別の安全係数としては、一般的に連続使用温度に対して10〜20℃の温度マージンを確保することが推奨されます。高温環境下で使用されるプラスチック製品では、クリープ特性や疲労特性の温度依存性も考慮に入れる必要があります。耐熱樹脂の選定では、カタログ記載の連続使用温度だけでなく、実使用条件でのデータや長期信頼性試験結果を総合的に評価することが重要です。

プラスチック素材の分類別耐熱温度一覧と特性比較
汎用プラスチックの耐熱温度と使用限界
汎用プラスチックは、日常生活から産業用途まで幅広く使用されている素材です。低密度ポリエチレンの連続使用温度は60℃から70℃程度であり、高密度ポリエチレンでは80℃程度まで向上します。ポリプロピレンは汎用プラスチックの中では比較的耐熱性に優れ、連続使用温度は100℃から120℃の範囲で使用されています。ポリスチレンの耐熱温度は70℃から90℃、ポリ塩化ビニルは60℃から80℃、ABS樹脂は70℃から100℃が一般的な使用温度範囲となっており、高温環境での使用には限界があります。
エンジニアリングプラスチックの耐熱性能
エンジニアリングプラスチックは、汎用プラスチックよりも機械的強度と耐熱性に優れた素材として、自動車部品や電気電子部品に使用されています。ポリアミド(PA6、PA66)の連続使用温度は80℃から150℃の範囲にあり、荷重たわみ温度は150℃から200℃程度です。ただし、吸湿により機械的特性が変化するため、使用環境の湿度管理が重要となります。ポリカーボネートは連続使用温度が120℃から130℃であり、透明性と耐衝撃性を兼ね備えています。ポリアセタールの耐熱温度は90℃から110℃、ポリエチレンテレフタレートは60℃から150℃の温度範囲で使用され、結晶性樹脂としての特性を示します。
スーパーエンジニアリングプラスチックとフッ素樹脂の高耐熱性
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、スーパーエンジニアリングプラスチックの代表的な素材であり、連続使用温度260℃という優れた耐熱性能を持ちます。ポリフェニレンサルファイド(PPS)の耐熱温度は200℃から240℃であり、耐熱性耐薬品性に優れるため、化学プラント用途にも適しています。フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は260℃から300℃の超高温環境に使用され、ほぼすべての化学薬品に対する耐性を持ちます。ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)は300℃を超える特殊な高温環境下でも使用される耐熱樹脂として、航空宇宙産業などに用いられています。これらのスーパーエンジニアリングプラスチックは、金属部品の代替材料として機械的強度と寸法安定性に優れた特性を発揮します。

高温環境下でのプラスチック材料選定実務ガイド
使用温度帯別の最適素材マトリックス
60℃から100℃の温度環境では、ポリプロピレンやABS樹脂などの汎用プラスチックが使用されており、コスト効率に優れた材料選定が可能です。100℃から200℃の中温環境では、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタールなどのエンジニアリングプラスチックへの移行が必要となります。この温度帯では、荷重たわみ温度と連続使用温度の両方を考慮し、使用環境における負荷条件を精査することが重要です。200℃以上の高温環境では、PEEK、PPS、フッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックが選定され、耐熱性だけでなく耐薬品性や機械的特性を総合的に評価する必要があります。各温度帯において、プラスチック素材の熱変形温度と実使用温度の間に適切な安全係数を設けることで、長期信頼性を確保できます。
機械的強度と耐熱温度のトレードオフ最適化
プラスチック材料は、温度上昇に伴い引張強度、曲げ強度、圧縮強度などの機械的特性が低下します。耐熱樹脂であっても、高温環境下では常温時の50%から70%程度まで強度が低下するケースがあるため、設計段階での温度補正が必要です。耐摩耗性についても温度依存性が大きく、摺動部品に使用される場合は荷重たわみ温度よりも低い温度での使用を推奨します。クリープ特性は長期使用において重要な評価項目であり、連続使用温度付近での荷重を受ける部品では、時間経過による寸法変化を考慮した設計が求められます。結晶性樹脂と非晶性樹脂では温度による特性変化のパターンが異なるため、プラスチック製品の用途に応じた素材選定が不可欠です。
金属部品代替のための耐熱性耐薬品性評価
金属部品をプラスチック材料で代替する際には、軽量化によるメリットと耐熱温度の制約をバランスよく評価する必要があります。アルミニウムや鉄鋼材料と比較して、スーパーエンジニアリングプラスチックは比重が約1/5から1/7と軽量であり、輸送機器や回転機器の慣性低減に大きく寄与します。化学物質との接触を伴う高温環境では、耐熱性耐薬品性の両方に優れたPPSやフッ素樹脂が適しており、耐久性試験によって長期安定性を確認することが重要です。コスト面では、プラスチック素材の材料費は金属よりも高い場合がありますが、加工性に優れるため製造コストの削減が可能となります。金属部品代替の可否判断では、使用温度、機械的負荷、化学環境、寸法精度、コストを総合的に分析し、最適なプラスチック材料を選定することが求められます。

プラスチック容器・製品別の連続使用温度基準と安全設計
食品用プラスチック容器の耐熱基準
食品用プラスチック容器の耐熱温度は、食品衛生法に基づく試験方法によって評価されます。電子レンジ対応容器では、ポリプロピレン製が120℃程度の連続使用温度を持ち、一般的な加熱調理に適しています。ポリエチレンテレフタレート製容器は60-80℃が実用範囲となるため、冷蔵保存や常温食品に使用されています。耐熱性に優れるプラスチック素材を選定する際は、接触する食品の温度だけでなく、加熱時間や繰り返し使用の影響も考慮する必要があります。
工業用プラスチック製品の高温環境設計
自動車部品のエンジンルーム用途では、150-200℃の高温環境に耐えるエンジニアリングプラスチックが使用されています。ポリアミドやポリフェニレンサルファイドは、機械的強度と耐熱性耐薬品性に優れるため、金属部品の代替として広く採用されています。電気・電子部品では、連続使用温度とともに難燃性や電気絶縁性も重要な選定基準となります。化学プラント用途では、フッ素樹脂やポリエーテルエーテルケトンが高温環境下での耐薬品性と寸法安定性に優れた特性を発揮します。
結晶性樹脂と非晶性樹脂の温度特性の違い
結晶性樹脂は明確な融点を持ち、その温度付近で急激に機械的特性が低下する特徴があります。ポリアセタールやポリアミドなどの結晶性樹脂を使用する際は、荷重たわみ温度より十分に低い温度での設計が求められます。一方、非晶性樹脂はガラス転移温度以上で徐々に軟化するため、温度上昇に対する特性変化が緩やかです。ポリカーボネートやポリスチレンなどの非晶性樹脂は、幅広い温度範囲で安定した性能を維持できるため、温度変動が大きい使用環境に適しています。熱変形温度の測定条件も、結晶性樹脂と非晶性樹脂では異なる挙動を示すため注意が必要です。

FAQ:プラスチックの耐熱温度に関するよくある質問
荷重たわみ温度と連続使用温度はどう違いますか?
荷重たわみ温度は短時間の加熱試験で測定される指標であり、特定の荷重条件下でプラスチック素材が変形する温度を示します。一方、連続使用温度は長期間にわたって機械的特性を維持できる温度の上限値です。荷重たわみ温度が高くても、連続使用温度はそれより20-40℃程度低く設定されることが一般的です。実際のプラスチック製品の設計では、使用環境の温度や負荷条件に応じて、連続使用温度を基準に安全係数を考慮した温度設定が必要です。
カタログ記載の耐熱温度をそのまま設計値にしても問題ありませんか?
カタログに記載された耐熱温度は、特定の試験条件下での値であるため、実使用環境ではさらに余裕を持たせた設計が推奨されます。使用環境における化学物質との接触、機械的応力、紫外線などの複合的な要因により、耐熱性能は低下する可能性があります。特に高温環境下で長期間使用される部品では、クリープ特性や疲労特性も考慮し、連続使用温度の70-80%程度を実用温度の上限とする設計が安全です。スーパーエンジニアリングプラスチックやフッ素樹脂を使用する場合でも、同様の配慮が求められます。
120℃環境で使用する部品に最適なプラスチック素材は何ですか?
120℃の連続使用温度が求められる用途では、エンジニアリングプラスチックの選定が適切です。ポリアミド66は130-150℃の連続使用温度を持ち、機械的強度と耐摩耗性に優れています。ポリフェニレンサルファイドは200℃以上の耐熱温度と優れた耐薬品性を併せ持つため、より厳しい条件にも対応可能です。ポリカーボネートも120-130℃の耐熱性を持ち、透明性が求められる用途に適しています。最終的な素材選定では、機械的特性、寸法安定性、コストのバランスを総合的に評価することが重要です。
フッ素樹脂とPEEKの使い分けの基準を教えてください
フッ素樹脂は260-300℃の超高温に対応でき、ポリテトラフルオロエチレンは優れた耐薬品性と低摩擦特性を持ちます。しかし、機械的強度はポリエーテルエーテルケトンに劣り、高い荷重がかかる用途には適していません。PEEKは260℃の連続使用温度と優れた機械的特性を併せ持ち、航空宇宙や医療機器など高い信頼性が求められる分野で使用されています。耐薬品性や摺動特性を最優先する場合はフッ素樹脂を、機械的強度と耐熱性の両立が必要な場合はPEEKを選定するのが基本的な判断基準です。
短時間なら耐熱温度を超えても使用できますか?
短時間の温度上昇であれば、熱変形温度や荷重たわみ温度を参考に判断することができます。ただし、繰り返しの熱サイクルは材料の劣化を促進するため、頻繁に耐熱温度を超える使用は避けるべきです。プラスチック材料は温度上昇により機械的特性が低下し、特に結晶性樹脂は融点付近で急激な性能低下が発生します。緊急時や例外的な状況を除き、連続使用温度を基準とした設計を行い、安全性を確保することが製品の信頼性向上につながります。
プラスチックの耐熱性を向上させる添加剤はありますか?
耐熱性樹脂の性能を補完する添加剤として、ガラス繊維やカーボン繊維などの強化材が広く使用されています。これらの添加により、荷重たわみ温度や機械的強度が向上し、高温環境下での寸法安定性が改善されます。また、熱安定剤は高温環境下での酸化劣化を抑制し、長期的な耐熱性能の維持に貢献します。しかし、添加剤による耐熱性向上には限界があり、根本的に高い耐熱温度が必要な場合は、スーパーエンジニアリングプラスチックやフッ素樹脂などの高性能プラスチック素材への変更が推奨されます。
高温環境下での寸法変化はどの程度見込むべきですか?
プラスチック素材の線膨張係数は金属の5-10倍程度であり、温度変化による寸法変化を設計段階で考慮する必要があります。汎用プラスチックでは100℃の温度上昇で0.5-1.0%程度の寸法変化が生じる一方、ガラス繊維強化材を添加したエンジニアリングプラスチックでは0.2-0.3%程度に抑制できます。ポリフェニレンサルファイドやポリエーテルエーテルケトンなどの結晶性樹脂は、比較的高い寸法安定性を示します。精密部品や嵌合部では、使用温度範囲全体での寸法変化を計算し、適切なクリアランスを設定することが重要です。
耐熱性試験を自社で実施する場合の注意点は何ですか?
耐熱性試験を自社で実施する場合、JIS K7191に準拠した荷重たわみ温度測定や、UL746B規格に基づく長期熱老化試験の実施が推奨されます。試験片の形状や寸法、荷重条件を規格通りに管理し、再現性のあるデータを取得することが重要です。また、実使用環境を模擬した条件での評価も有効であり、化学物質との接触や機械的応力との複合環境試験により、より実態に即した耐熱性能を把握できます。試験結果は連続使用温度の設定根拠として文書化し、製品の信頼性保証に活用することが求められます。
プラスチック耐熱温度とは何ですか?
プラスチック耐熱温度とは、プラスチック素材が物性や形状を維持できる最高温度のことです。連続使用温度や荷重たわみ温度など複数の指標があり、使用環境に応じて適切な素材を選定する必要があります。耐熱温度を超えると変形や劣化が生じます。
ABS樹脂の素材特性と耐熱温度は?
ABS樹脂はアクリルニトリル、ブタジエン、スチレンの三成分からなる素材です。耐熱温度は約70〜100℃で、機械的強度と加工性に優れています。家電製品や自動車部品など幅広い用途に使用されている汎用プラスチックです。
高耐熱性の素材にはどのようなものがありますか?
高耐熱性の素材には、ポリエーテルエーテルケトンやポリフェニレンサルファイドなどのスーパーエンジニアリングプラスチックがあります。これらは200℃以上の耐熱温度を持ち、高温環境下でも機械的特性を維持できるため、金属部品の代替としても使用されています。





















