破壊的イノベーションとは?必要性や持続的イノベーションとの違いを解説
新世代のスマートフォンが登場したことで、フィーチャーフォンが市場から圧倒的な速さで姿を消しました。これはまさに、ある業界や市場を根底から覆す”破壊的イノベーション”の一例です。
総じて「イノベーション」と言えば、新しいアイデアや考え方、技術を実用化し、人々の生活やビジネスに革新をもたらす行為を指しますが、”破壊的イノベーション”と”持続的イノベーション”とはどのような違いがあるのでしょうか。
それぞれの定義や具体的な特性、そして私たちがこれらの概念を理解し、活用するのにどのような必要性があるのかについて、本記事で詳しく解説していきます。
目次
破壊的イノベーションとは
「破壊的イノベーション」(Disruptive Innovation)とは、新規の技術やサービスが市場の既存の価値基準を覆し、新たな価値尺度を設定するイノベーションのことです。この概念は、クレイトン・クリステンセン教授が自身の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱し、それは市場競争のルールを徹底的に崩壊させ、既存企業のシェアを裂き、業界の構造を大規模に変革するほどの革新であると定義しています。
細かく見ていきますと、音楽業界におけるCDからストリーミングサービスへ、また、電話業界での有線からモバイルへの移行は、一般的な破壊的イノベーションの事例と言えます。既存のプレイヤーが伝統的な取り組みに固執し、新たな動きに適応できなかったため、新興企業によって市場が握られたのです。
破壊的イノベーションは既存の価値観やビジネスモデルを一掃するリスクも持っています。自衛策に固執する傾向のある組織が革新を恐れるのは当然の反応ですが、流れに逆らうのは困難です。
とはいえ、破壊的イノベーションが持つ含意は全て否定的なものではなく、新しい可能性と機会をもたらす力でもあるのです。そのため、私たちは急速に変わる現代社会でこの力を理解し、利用していかねばならないと言えます。
破壊的イノベーションが必要な理由とは
市場環境はIT化やグローバル化の進展によって大きな変化を急速に経験しており、事業を安定させて長く営むことが難しくなってきています。日本の企業は多様な持続的イノベーションを通じて既存の事業を拡大しようとしており、市場は過剰供給の状況になりつつあります。
このような状況では、かつては好業績を保証していた企業であっても、他社から新たな技術や製品が発表されると、いきなり成績が大きく下がる可能性があります。
こういった背景から、企業の存続を可能にするための一手段として、破壊的イノベーションに注目が集まっています。
破壊的イノベーションを活用することで、既存の事業で蓄積した技術や知識を新たな市場で応用することが可能になり、供給過多による顧客の離れを防ぐことができます。それと同時に新市場の創出も可能となり、これらは企業の存続に対するプラスに働く可能性があります。
破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いとは
新たな価値を生み出し、ビジネスの舞台で功績を挙げるためには、イノベーションが不可欠です。その具現化として主に扱われる概念が、破壊的イノベーションと持続的イノベーションです。破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いについて解説します。
破壊的イノベーションは、これまでとは違うレール上で新たな価値を創造し、既存の市場を変容させるイノベーションの姿です。これは、新技術が微細でも、徐々に旧来の技術を取って代わる形で実現します。その明確な例としては、アップルのiPhoneやUberが存在します。
持続的イノベーションは、既存の製品・サービスを逐一改良し、次のステージへと引き上げることです。
市場を固守しつつ、製品やサービスのフィネスを追求し、競争力を維持するものです。このイノベーションは市場や顧客の既存領域にとどまり、技術改革は段階的に進んでいきます。
これら二つのイノベーションはよく対照的な関係に見られますが、一緒に実施されることでビジネスの好循環と長期的な繁栄を掴む企業も存在します。この二つをうまく調和させて適切なイノベーション戦略を実現することが求められています。
破壊的イノベーションは、業界の流れや体系に激震を与える可能性がある一方、持続的イノベーションは、現在の市場価値を営々と外さないよう取り組むものですからです。
破壊的イノベーションの種類とは
破壊的イノベーションは、通常2つのタイプに分けられますが、実際にはこれらが融合した形で破壊的イノベーションが発生する事例が多く見られます。
ここでは2タイプの破壊的イノベーションについてご紹介します。
ローエンド型破壊的イノベーションとは
ローエンド型破壊的イノベーションは、一言で表すならば”新たな価値を創出する、既存市場のリニューアル”です。その性能は既存の製品やサービスに劣ることもありますが、価格や利便性、アクセシビリティといった点で既成の考え方を覆す特徴を持った新たな商品やサービスを指すのです。
例えば、デジタルカメラの普及がフィルムカメラを取って代わり、現在ではスマートフォンに内蔵されたカメラが主流を占めています。これはローエンド型破壊的イノベーションの良い例です。
この種のイノベーションは、初期段階では既存製品の性能に匹敵しないかもしれませんが、徐々にその性能を磨き上げ、最終的に既存の市場を打破し、新しい市場を形成します。
新市場型破壊的イノベーションとは
新市場型破壊的イノベーションとは、従来の競争相手となる企業が注目する顧客層への製品ではなく、全く新たな価値観を基にした顧客層に対し、ニューノーマルな価値を提供することで、新たな市場を生み出す革新のことを指します。これはクリステンセンにより「まだ消費されていなかった状況」に挑むイノベーションと位置づけられています。
小売りからエンドユーザーまで、同じ製品をつなげるネットワークを「バリューネットワーク」と呼びます。しかし、既存の企業では、大規模な既存市場のバリューネットワークを選ぶことは困難で、代わりに新たなバリューネットワークを模索することが求められます。
新市場型破壊的イノベーションを追求する企業は、この機会を逃さず、革新的な技術を活用して新たなバリューネットワークを開拓し、これまで存在しなかった新市場を創出します。この新たなバリューネットワークは、新製品が従来よりシンプルで、製造コストが低いことを条件に、存在するとされています。
既存市場の企業が新たに創出した市場に魅力を見出し、新たなバリューネットワークへ参入しようとすると、既くに基盤を築いた企業から大きな優位性を与えられることとなります。
例えば、電気自動車のテスラやスマートフォンのiPhoneなどが新市場型のイノベーションと言えるでしょう。これらの企業は、それ以前の自動車産業や携帯電話産業とは違う価値を提供し、市場を席巻しています。
破壊的イノベーションの事例とは
この章では、破壊的イノベーションの成功事例をご紹介します。
ローエンド型破壊的イノベーション
代表的な事例は以下の事例が挙げられます。
ユニクロ
ユニクロは、低価格ながら優れた品質の商品群で破壊的イノベーションを進行させた一企業として名高いです。
かつてはささやかな衣料品店だったユニクロですが、自身のプライベートブランド戦略と高質で安価なアイテム群によって、競争力を増幅させていきました。
そのユニクロの革新とは、会社内で商品サプライチェーン全体を手掛けて、購入、製作、配布、販売まで一元化すること。
これにより、不要な要素を取り除き、コストを削減することに成功しました。シンプルながらも全ての人々と共有できる商品設計によって注視を集め、ブランドイメージの向上にも繋げました。
ダイソー
ダイソーは、1991年から本格的に100円ショップのチェーンを展開し、その成功はローエンド型破壊的イノベーションの見本と言えるでしょう。
ダイソーは、商品の全てを100円(税抜)とする画期的な価格設定により、日本だけでなく世界中にその名を轟かせました。
「安さの中にも品質を兼ね備えた商品を提供する」という信念を貫き、そのビジョンは一般的な消費者の意識を覆しました。結果としてダイソーの商品の幅広さと低価格は、消費者から圧倒的な支持を得ることができ、その市場は急速に拡大しました。
その他、ダイソーの成功の鍵となっているのは、商品開発から販売までを一貫して行うという独特のビジネスモデルです。これにより、最大限の利益を追求しつつも、消費者に対して低価格を維持し続けることが可能になりました。
ニトリ
ニトリは、自社生産と直輸入を活用し、低価格ながらも、品質の良い家具やインテリア用品を提供しています。
独特なビジネスモデルにより、国内で支持を集めており、この手法は「コスト・リーダーシップ戦略」とも言われています。
2006年の東京進出以降、「お、ねだん以上。」を掲げ、値下げ宣言を重ねることで一躍注目を浴び、家具業界やスーパーマーケット業界のシェアを食いつぶす形で進出。
ニトリという企業がローエンド型破壊的イノベーションを起こし、その結果、家具が身近な存在になり、多くの消費者から評価され、業界の新たなトレンドを築きました。
新市場型破壊的イノベーション
新市場型破壊的イノベーションの事例をご紹介します。
ソニー
ソニーのウォークマンは、自宅でステレオから流れる音楽を聴くだけでなく、外出先でも好きな音楽を手元で楽しむことを可能にし、新たなライフスタイルを提案しました。
この新発想は、当時の音楽の聴き方を根底から覆す存在となり、社会に大きな波紋を呼びました。
ソニーは新市場型破壊的イノベーションによる革新のほかにも、製品性能の向上にも注力しています。例えば、ウォークマンでは初期の音質問題を投資による技術進化で改善し、CD同等の音質を実現しました。
Apple
Appleは単に新市場型破壊的イノベーションの先導者ではなく、その原動力として位置づけられています。
Appleを象徴する製品といえば、2007年に発表されたiPhoneがあります。従来の携帯電話の概念を一新し、「スマートフォン」という新たな市場を形成しました。2010年のiPadもタブレットマーケットの創設者であり、全世界に対して大きな影響力を持ちました。
これらの製品は、Appleが技術を最大限に利用し、新たなユーザーエクスペリエンスを提供することで新市場を構築し、それに伴って我々の生活様式を更新しました。
Appleの成功の背後には、製品の品質だけでなく、新市場型破壊的イノベーションへの挑戦と、ユーザーの利便性を最優先に考えるという思想があります。その絶えず変革的なアプローチによって、私たちの生活は大きく進化し続けています。
AppleのiPhoneは、通信機能だけでなく、音楽プレーヤーやアプリケーション利用などの追加的な価値を備えたポケットサイズのコンピューターとして開発されました。現在ではスマートフォンという形で一般的になっていますが、iPhoneが提供する多機能性は当初から多くの製造業者を震撼させました。
さらに、従来型の携帯電話の進化を助長し、スマホアプリという新たな領域を形成するなど、iPhoneは携帯電話産業だけでなく、カメラ製造、オーディオ製造、コンピューターメーカーの市場シェアを奪い取りました。
まとめ
破壊的イノベーションとは既存の市場を根本から覆し、新たな価値を生み出すイノベーションの一形態であり、持続的イノベーションとは既存の商品やサービスを進化させる形のイノベーションです。
これらを活用し理解することで、企業は競争優位性を保つと同時に、顧客の求める価値を継続的に提供できる可能性を秘めています。
よくある質問
破壊的なイノベーションの例は?
破壊的イノベーションは、提供価値の違いによって2つのタイプに分かれます。1つ目は、「ローエンド型破壊的イノベーション」と呼ばれ、既存市場の製品やサービスよりも限定的な性能で圧倒的な低価格を実現します。
具体的な製品や企業としては、LCC(格安航空会社)、回転寿司チェーン、アイリスオーヤマ社の家電事業、ユニクロのファストファッションなどがその例として挙げられます。
破壊的イノベーションとは何か?
破壊的イノベーションは、ハーバードビジネススクールの元教授であるクレイトン・クリステンセン氏が「イノベーションのジレンマ」という著書で提唱したイノベーションモデルの一つです。
このモデルでは、技術革新や新たなアイディアが、既存の安定した事業状況を破壊し、その事業の業界構造を根本的に変革することを指します。